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ミステリの祭典

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ある男

作家 平野啓一郎
出版日2018年09月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 斎藤警部
(2024/02/04 09:07登録)
二人目の夫が山中の仕事場で事故死。 夫の兄は実家から駆け付け、一目見るなり「これは弟じゃない!」。 数年前に一人目の夫と離婚の際世話になった弁護士(主人公)が再び呼ばれ、「夫」の正体探しと「弟」の所在捜しに奔走する、サスペンス沸々と蠢く人間史発掘ドラマ。 溢れる言葉で思弁と春情いっぱい。 フレーズの密集が匂わしい割に、リーダビリティは頗る高い。

「それにやっぱり、他人を通して自分と向き合うってことが大事なんじゃないですかね。他者の傷の物語に、これこそ自分だ!って感動することでしか慰められない孤独がありますよ。……」

亡くなった/消えた人物の捜索(キーワードは「●●」。。。。)への興味に留まらず、夫婦や親子、兄弟や男女の愛憎関係へも、濃淡織り交ぜイメージ豊かな主題性が付与されています。
ある組合せの二人の関係に、ある意味エンドマークが下された直後から、二人にとってはアンコールピース、物語にとってはクライマックスが始まる予感でいっぱいの構図、ニクいね。。 と思い込んでいると。。 いやはや、この進行からの流れも最高にじんわり来ました。

「なんか、二百歳まで生きた人間を知ってるとか、メチャクチャ言ってましたよ。」
○○は、思わず吹き出して、手に持ったコーヒーを零しそうになった。
「僕には三百歳って言ってましたよ。」

回鍋肉カレーとマイケルシェンカー、シメイホワイト。。
終盤の方で、どうしても一呼吸、いや暫くの時間を置いてから読みを再開したくなる章間がありましたね。筆力だねえ。

様々な人間どうしの関係叙述が整理を終える度パタパタと蓋を閉じ、最後にあの一文。 大空のようなスッキリと少しのモヤモヤ、双方含んだまま、素晴らしい終わりを本作は迎えてくれました。


“そして、自分によく似たような男が、もう一人いたんだなと思った。”

“その後は、しばらく二人とも黙っていた。”


最後に。 この本は、思わせぶりな「序章」が何とも掴んで来るのですよね。


追記
・亡くなった「夫」が仮に「X」と呼ばれ、そこに「ツイッター」や「フェイスブック」も登場するため何だか紛らわしいこと!
・チャラついてキャラの濃い「兄」が登場シーンから脳内大泉洋だったお蔭で、嫌な奴というよりコミックリリーフになってくれちゃいました。(ひょっとして映画版でも.. と思ったが、別な俳優さんでしたな)

No.1 7点
(2019/11/05 09:59登録)
内容紹介などを事前に目にすることなく読み始めたので、最初の40ページほどのところでまず、衝撃を受けました。
Who & Why系文芸ミステリーなのか?
まあ、芥川賞作家が書いたハイブリッド小説にはちがいありません。

読み進めると、主たる登場人物の内面が独白的に描かれることが多くなります。この内面描写には社会に対する著者の主張のようにも思われ、少し納得しつつ、少し敬遠しつつ、さらに読み続けると、社会派要素のある重厚なミステリーに戻ってきます。

評者の既読の作品でたとえると、宮部さんの『火車』と、ドストエフスキーの『罪と罰』(もしくは島崎藤村の『破戒』)とを、7対3ぐらいに混ぜ合わせて、さらに読みやすくした感じです。しかも、スマホとかSNSが登場するので、かなり現代風でもあります。
ただし、しつこいほどの重さを感じたところもありましたが・・・
なお、些細な日常を、文章を巧みに操りながら描いた、スケールの小さな私小説風な純文学でなかったところは、大いに気に入っています。

この著者はデビューして20年のベテラン作家なので、おそらくいつかの時点で、純文学を追求していくよりは、エンタメ、ミステリー要素を採り入れることで売れる道を選んだのでしょう。
それとも初めからこんな感じだったのかな?

本書はミステリーとしても、一般小説としてもお気に入り度は高めです。
初読の作家さんでしたが、今回の読書で、今後はミステリー的なものをチョイスしながら読み続けたいという気にさせてくれました。

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