紗央里ちゃんの家 |
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作家 | 矢部嵩 |
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出版日 | 2006年11月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | メルカトル | |
(2019/10/26 22:37登録) 叔母からの突然の電話で、祖母が風邪をこじらせて死んだと知らされた。小学五年生の僕と父親を家に招き入れた叔母の腕もエプロンも真っ赤に染まり、変な臭いが充満していて、叔母夫婦に対する疑念は高まるけれど、急にいなくなったという従姉の紗央里ちゃんのことも、何を訊いてもはぐらかされるばかり。洗面所の床から、ひからびた指の欠片を見つけた僕は、こっそり捜索をはじめるが…。第13回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。 『BOOK』データベースより。 異常な者の視点から観察した異常な人々と状況。これが新しいのではないかと思います。一見なぜこの作品がホラー小説大賞を受賞できたのか、疑問に思う方も多いでしょうが、その要因は上記に挙げた一点に尽きると考えます。 文章は敢えて稚拙に書かれていますが、それは小学五年生の主人公の一人称によるものだからで、作者は決して文章力のない人ではないと思います。 おそらく、一読後何だこれは?と疑問に感じると言うか、なぜこんなものを読まされなければいけないのだと、まあ大袈裟に言えばそう思う人も少なからずおられることでしょう。でもね、これは狂気なんですよ。決して悪ふざけしている訳ではなく、ちゃんと真面目に書かれています。選考委員の審美眼が間違っているとは私は思いませんね。ただ世評が低いのは認めます。少数派の人間にしか分かり得ないものが内包されているのかも知れません。だから、万人に受ける作品でないことは確か、それで良いんじゃないでしょうかねえ。 「僕」も異常、お父さんも異常、叔父さんも異常、叔母さんも超異常、姉も異常。拠ってホラーだと分かって読んでも普通の感覚では付いて行けないかも知れません。しかし終盤でのお父さんの心の底からの告白は、どこか分かる気がするのは自分だけではないと思います。誰しもが少しは感覚としてどこかに隠し持っている物じゃないかという気がします。あなたも私も普通だと思って生きているかもしれませんが、多分普通じゃないんですよ。完全な人間なんていませんからね。 ところで、この無茶苦茶なストーリーには読者まかせの部分もありますが、きっちりオチはありますので、念のため。 |