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ミステリの祭典

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銀のカード

作家 ボアロー&ナルスジャック
出版日1980年12月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 クリスティ再読
(2024/12/12 10:42登録)
評者も年を喰ってきたわけで「あとはニコニコしながらあの世に行くのが仕事」なんて公言したりもするんだよ。そんな「老年」を扱ったのが、ボア&ナル最後の訳書の本作。結局ボアローの死去(1989)の後にナルスジャックがまとめたのか、共作名義で1991年まで本が出ていたりして、未訳が15冊もある。評者は後期ボア&ナル大好きだから、きっと気に入る作品もあるだろうな、と残念なところでもある。

あらすじなどは人並さんのご書評がよくまとまっているので、そちらに譲る。要するに、老いらくの恋とはいいながら、やっぱり肉体的には老いているために、エネルギー不足でなかなか「燃え上がる」とはいかない不倫の話。この不完全燃焼感の中で、主人公のエルボワーズは、愛人?のリュシイルが、自分にとって都合の悪い養老院仲間を事故に見せかけて殺しまくっているのでは?という疑惑に駆られる。だから結構初期っぽい心理主義に戻っている雰囲気はあるけども、恋にも疑惑にも主人公がのめり込まないあたりに、ヘンな新鮮さがある。
そのうち「あの世に行くよ~」と思っていたら、殺されたってどうということもない。そんな諦念がベースにもあるために、サスペンスならざるサスペンスと言った、独特な読み心地になっているわけだ。
だからミステリとしてはかなり「奇抜」な狙いだけど、「一発芸」に近いのかな。作者に覇気がある、とも逆説的にいえなくもない(苦笑)

というわけで、今後もボアロー・ナルスジャックの単独作は拾っていきたいけども、とりあえずこの合作コンビとしてはコンプ。ベスト5は「悪魔のような女」「女魔術師」「思い乱れて」「呪い」「私のすべては一人の男」。
「死者の中から」「殺人はバカンスに」あたりがそれに続くかな。

今回コンプして「殺人はバカンスに」以降の後期作もしっかり面白いことが確認できたのがよかった。

No.1 6点 人並由真
(2019/09/29 01:47登録)
(ネタバレなし)
 1978年のフランス。「私」ことミッシェル・エルボワーズは、金持ち相手の養老院「ハイビスカス」に入居する73歳の元・会社社長。60歳の時に12歳年下の妻アルレットに逃げられた苦い過去があり、残された息子はすでに死亡。係累といえば、遠方のアルゼンチンに暮らす、顔も知らない26歳の孫ホセ・イグナチオだけだった。院内で今日も倦怠の時を過ごすエルボワーズだが、ハイビスカスは新たな夫婦者の入居者、78歳の元判事ルーブル・クサヴィエと、その妻で62歳だが見かけはずっと若いリュシイルを迎えた。だがエルボワーズは、以前からの入居者の老人ロベール・ジョッキエールと、リュシイルの間に、何か表沙汰にしない旧縁があるのを察してしまう。やがてハイビスカスの中で、ある惨事が発生して……。

 1979年のフランス作品。本サイトのレビュアーの空さんが先にご指摘されていたとおり、これが長年日本の読者に親しまれてきたボワロー&ナルスジャックコンビの著作のうち、邦訳された中では、一番最後に本国で刊行された長編のようである。Wikipediaをざっと参照すると、このあとにまだ15冊以上も未訳があり、中には読む価値のあるものも少なくないだろうに。とてももったいない。
 それで本書ポケミスの巻末の解説を読むと、本長編は刊行された1970年代末には、巨匠作家ながら出版部数的にはやや落ち着いていた送り手コンビが久々にフランス国内でベストセラーとしてヒットを飛ばした作品だそうで。
 それって日本で言うなら、安定したファン層&購読者層はいるけれど通常、大ヒットには結びつかない大ベテラン作家(晩年の佐野洋や笹沢佐保や三好徹とかのイメージかな)の新作が、いきなりベストセラーリストの上位に入ったような感じか。まあ当たらずとも遠からずだろうね(?)。
 
 その辺の興味もあって思いつきで読み始めてみたが、うん、これはいい感じにジワジワと情感が盛り上がってくる、インドア派のサスペンス。主人公エルボワーズが侵入居者の女性リュシイルに関心を抱いて二人の間の距離を狭める一方、老人ホームの院内では入居者の生命に関わる予想外の事態が連続する。そしてその陰で、若い頃は作家志望で著作も二冊もあった主人公エルボワーズは、クサヴィエ夫妻の入居以前から自分の退屈さを紛らわすための個人的な手記を書きためているが、次第にその手記に記される内容も……。
 本筋となる主人公エルボワーズとヒロインのリュシイルの不倫愛的な関係性は緊張感たっぷりだし、これは老人たちの老いらくの恋を主題にした悲恋(?)ドラマ風ミステリ? それとも現実と手記の世界を行き来する、多層的な構造を援用したサイコスリラー? と小説の実質はなかなか底を見せない。
 しかし頁が残り少なくなり、読者が何らかの形で真相を受け止める構えを見せた瞬間……なんだこれ?! ポカーン。

 良く言えば「そうくるか」、悪く言えば「バカにするな」のとにもかくにも壮絶なオチで、伏線もほぼ皆無、あまりに唐突すぎるそのラストの意外性に体の気力を奪われる。
 いや、あれこれ伏線や布石を張っておいてココに持ってくるような種類のエンディングじゃ決してないから、結局はとにもかくにもこういう形で最後に意外性を放るしかなかったのはわかる。
 が、これはなんというか、打球に勢いもある、その飛んでいく軌跡も綺麗、しかし落下したところの判定は大幅にファール! のある種のバカミスのような。
(ちなみにこのラスト、意図的に裏読みもできるように、作者はその辺も計算に入れている……よね。よね?)

 考えようによってはこのラストの仕掛けのために作品全体が奉仕したともいえるような気もするし、そういうアホなエネルギーの使い方はキライじゃない、というより、むしろ大好きな口なので、肯定したい面もある一冊。ただまぁ客観的に見ればやっぱし、練り込みを放棄したワンアイデアストーリーの誹りも仕方がない作品でもあるか。まあ強烈な印象だけは確実に残る。 

 しかし先の話に戻って、この作者コンビ、この時期になってまだこんなもん書いていたのだから、残りの未訳作品のなかにはきっとなんか、もっともっとヘンなものもあるよね? どなたかうまいこと楽しそうなのを見つけて発掘して、21世紀の日本語の新刊にしてくれませんか。

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