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ミステリの祭典

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先をゆくもの達

作家 神林長平
出版日2019年08月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 7点 糸色女少
(2019/12/08 10:14登録)
「話せば分かる」は理想だが、それは本当に可能なのか。自分自身のことも完全には分からないのに、安易に「分かり合える」なんて不遜ではないか。この作品には、理解し合うのが困難な多様な「他者」たちが登場する。
作中の未来の地球は、温暖化による環境の激変で人口が激減したものの、AIのおかげで、人間たちは平穏に暮らしていた。だが、そんな生活に飽き足らない人々は火星で自分たちらしく生きることを目指す。3次までの火星移民が男たちの争いにより失敗したと考え、第4次入植団は女性だけで構成された。
そんな時ある原因で、火星は思わぬ大混乱に陥り、長らく人的交流が途絶えていた地球に救助を求める必要が生じた。こうして地球人と「火星人」、AIなど、いくつもの「相互理解困難な知性」がぶつかり合い、世界そのもののありようが変化し始める。
他者を受け入れることは難しい。「自分」そのものもまた、他者と関係し、融合することで変化する。そうした揺らぎを極限まで描く神林作品は、同時に共存の努力がもたらす大きな可能性と希望をも感じさせてくれる。

No.1 8点 虫暮部
(2019/09/27 11:59登録)
 どこで何が起きているのか、良く判る話だと思った。
 神林長平作品に於いては、それが充分大きな特徴なのである。しかも一話ごとに場面も物語も転換する連作短編集的な構成で、徒にダラダラ続かずテンポ良く読み進める。諸々の関係性は明瞭で全体像もしっかり見えて、一方で作者独特のディベートの妙味も失わず。これは神林長平の入門編に格好の読み易さではないか。今になってそんな話を書くとは……。
 と思っていたら最後にドカンと来てイメージの刷新を余儀なくされ、ここはどこ、わたしはだれ? 状態。叙述トリックSFなのだった。

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