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ミステリの祭典

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サーカス・クイーンの死
サッチャー・コルトシリーズ

作家 アンソニー・アボット
出版日2019年10月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2020/01/15 05:31登録)
(ネタバレなし)
 先に読んだ『世紀の犯罪』同様に、動きの多い警察小説寄りの一流半のフーダニット。今回は、途中から明かされる<奇妙な凶器>の趣向も物語を盛り立てて、さらに面白かった。
 サーカス団の一角を占めるアフリカ人・ウバンギ族の連中のいかにも未開民族的な言動は、探偵役のコルトたちの捜査活動にまでじわじわと食い込んできて、その辺の異様な感覚が実に楽しかった。そんな文芸を受けた終盤のオチも決まっている。
 しかしこの<近代文明の大都会の一角にあまりにも場違いな未開人種のコミューンが成立し、その周囲で殺人事件が起きる>って、たぶんディッキンスンの『ガラス箱の蟻』の大設定の先駆だよね? 本書の解説でも特に触れられていませんが。
(と言いつつ、評者もまだ『ガラス箱の蟻』を読んでない~汗~。いつかそっちの現物を読んで、実際の異同のほどはこの目で確かめよう。)

 あと先駆といえば、事件の解決をわがままな理由でややこしくしたあの人だけど、こういうタイプのキャラって、のちのちに書かれた無数のミステリの中にタマに出てくるような。もしかするとこの作品は<その手の劇中人物>が登場するミステリの中で、結構先駆の一冊かもしれん? 
(まあ、これもしっかり検証したわけではないから、うかつな事は言えないのだが。)
 
 主要登場人物がそんなに多くはない(ただし名前だけ出るモブキャラは呆れるほど多い)こともあって、犯人の意外性は今ひとつだったけど、十分楽しく読めた佳作~秀作。アボットはこれからも良いペースで発掘紹介していってほしい。
 ただし本書巻末の横井司氏の解説は、今回はちょっと悪い意味で深読みしすぎ。ラストのアレは、そういう解釈とはまったく別ものの、ただの小説的な余韻を狙ってるものだと思うのですが?

No.1 6点 nukkam
(2019/10/28 21:23登録)
(ネタバレなしです) 1932年発表のサッチャー・コルトシリーズ第4作の本格派推理小説で、謎解きが粗く感じる部分もありますけどこの作者としては出来のいい作品ではと思います。有名なサーカス団が次々に不運な事件に見舞われ、さらに団員たちに脅迫状が送られていることが序盤で紹介されます。誰が犠牲になるのかという謎で盛り上げているのですがタイトルから簡単に予想がついてしまうのは演出的にもったいない気がします。数千人の観客の前で殺人が起きるというのはエラリー・クイーンの「アメリカ銃の秘密」(1933年)を連想させますね(クイーンの方が後発ですが本書の影響はあったのでしょうか?)。クイーン作品でもどのように殺したかの謎がありますが、本書では非常に珍しい凶器が中盤で明かされます。しかしそれだけでは謎解きはまだ半分、誰にも気づかれずにどうやって(目立つ)凶器を使ったのかという謎は終盤まで残ります。ただサーカスという特殊な舞台背景が絡むため一般読者にはこの真相は感銘を与えないかもしれませんが(そこもロデオ大会を背景にしたクイーン作品と共通していると思います)。前書きで「入念な殺人、危険な犯罪者」であったことが語られますが、近代的な事件を強調する一方で呪術を信奉するアフリカ民族を登場させて土俗的な要素まで織り込んでいるなどサービス満点です。

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