死との抱擁 |
---|
作家 | バーバラ・ヴァイン |
---|---|
出版日 | 1988年08月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2019/09/15 20:53登録) (ネタバレなし) 1980年台の英国。「わたし」こと弁護士の妻フェイス・セヴァーンは、ノンフィクション作家ダニエル・スチュアートの要請に応じて彼が送ってきた資料と草稿に目を通し、在りし日の自分と周囲の人々の記憶に思いを馳せる。スチュアートが完成させようと構想している物語。それは、先に死刑囚として断罪されたフェイスの叔母ヴェラ・ビリヤードを主軸とする関係者たちの物語であった。 1986年の英国作品。本書はレンデルがバーバラ・ヴァイン名義で刊行した長編の第一作目で、さらにジェイムズ、ゴアズ、フリーマントル、R・L・サイモンなどの錚々たる面々の諸作と争って同年度のMWA長編賞を獲得したという、なかなか鳴り物入りの一冊。 日本ではくだんのヴァイン名義をふくめて邦訳が40冊以上出ているレンデルだが、評者は現状で一番最後に刊行された『街への鍵』(2015年のポケミス)まで数えても、そんなに読んでいない。まだ10冊足らずだと思う。 今回は三日前に近所のブックオフに、かなり状態の良い本書が108円で出たので、久々にレンデルもいいかなと思って購入。早速、読み始めてみた。 しかしこれはなかなかシンドイというか。よく言えば、歯ごたえがあるのは確かなのだが、素直なエンターテインメント成分なんか絶対に提供してくれない、黒い方のレンデルらしさ(と現時点で評者が思っている感覚)を十二分に味わった。 物語の冒頭で実質的な主人公というよりはキーパーソンの叔母ヴェラが何らかの重罪(まちがいなく謀殺であろう)を犯してすでに処刑された事実が提示されるので、物語の構造は「じゃあ、その犯罪とは一体どういうものなんだ」という興味の訴求に向かうわけだが、しかし、さすがは? レンデル、ここで焦らす焦らす。 大昔に体感した『ロウフィールド』のあの触感も、おそらくこんな味わいだったんだろうな、と思う。 フェイスの実家ロングリィ家には腹違いの関係をふくめてヴェラの四人の兄姉妹がおり(その中の長男ジョンの娘が語り手のフェイス)、その四人それぞれの家族や恋人、結婚相手などが広義のロングリィ一族となっておよそ二十年以上にわたる物語を紡いでいくが、この挿話の積み重ねがとにかくヘビーである。 いや、レンデルの小説作りそのものは決してヘタじゃない訳だし、この作者(の黒いサイドの時)らしいビターな人間観も随所で良い刺激となってどんどんページをめくらせるから退屈はしないのだが、一方で読み手の目線的には「いったいヴェラは何を為したのか」という大きなニンジンを最後まで鼻の向こうにぶら下げられたままなので、イライラと焦燥が蓄積。一読するのにすごくカロリーを使った。まあこの感覚こそが黒い時のレンデルの真骨頂なんだろうけど!? そう考えればクライマックスに明かされる事実が意外に(中略)なのも当初からのこの作品の狙いどころなのではあろうな。大山鳴動してなんとかとか決して言ってはいけない、勝負所はそこではない、作品だと思う。 (ただし21世紀の文明国の法務の観点で言うとこの犯罪、実刑は仕方ないし、厳罰はやむなしとも思うが、そこまで……(後略)。) MWA賞本賞の受賞については、納得できるような、なんかストンと呑み込めないザワザワ感が残るような……。Webのどっかで見かけたような気もするが「受賞のポイントが第二次大戦前後の銃後の英国市民の生活をリアルに描いてある」とか何とかいうのが評価のポイントなのだったら、それなら理解はできる。 まあミステリマニア的には、この時期のMWA賞受賞作の傾向を探るようなそんな意味で読んでみるのもアリだとは思う。 それで何が得られるかは、わからないけれど(汗)。 |