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ミステリの祭典

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妻は二度死ぬ

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1985年08月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 クリスティ再読
(2022/12/19 22:57登録)
シムノン最後の「小説」。というのも、この後もシムノンって自伝をいろいろ書いているわけだから、創作活動がゼロになったわけじゃない。まだまだ筆力に余裕があって、本作はきわめてあっさりした仕上がりだけども、それでも十分なシムノンらしさがあるのは、ちょっと驚くくらい。

原題が「Les innocents」だから「無実な人たち」と取ってしまえばミステリぽいんだけども、読んだ後だとブラウン神父じゃないけど「純真な人たち」と取りたくなるような作品だったりする。交通事故死した妻の死の真相を夫が調べる...といえば、スゴく「ミステリ」な興味がありそう!となる。確かに「妻の死の真相」が話の屈折点として機能はするんだが、それ以上に一流の宝石デザイナーとして成功した主人公が備える(やや成功とは裏腹な)「無欲さ」みたいなものの方がヘンでもあり、読者の心にずっと引っかかってくるのではなかろうか。

この本の登場人物たちはある意味「みんな、善人」だったりする。それでも妻を喪った(しかも二度も!)主人公の屈折が、どこかしら不穏なものを感じさせてならない....いやいや、これは評者の妄想。しかし、登場人物の運命を読後妙に気にしてしまうのは、やはり評者がシムノンの術中にしっかりハマっている証拠のようなものなのだろう。

なので本作は「ミステリな題材を思いっきり非ミステリ的に扱った」実にシムノンらしい小説なのだろう。

No.1 6点 人並由真
(2019/08/13 19:31登録)
(ネタバレなし)
 卓越した技巧から、斯界で高い評価を得る宝石デザイナーのジョルジュ・セルラン。彼が20年近く連れ添う愛妻アネットは、結婚前からの職業ソーシャルワーカーを現在もなお続けていたが、そのアネットがある雨の日、トラックに轢かれて死亡する。しかし事故の現場はセルラン家からは遠く、そしてソーシャルワーカーとしてのアネットの受け持ち区域でもない市街だった。遺された2人の子供を脇にセルランは幸福だったアネットとの結婚生活を回顧し、そして何故、妻がその事故の日、その現場にいたのか探求を開始した。

 1972年のフランス作品。ノンシリーズ作品ではシムノン最後の長編だそうである。
 それで物語の発端は、グレアム・グリーンの『情事の終り』(すみません。設定だけ知っていて実物は未読じゃ~汗~)ほかを思わせる<遺された夫が生前の妻の秘密を疑う>王道パターンだが、本作の場合は、全8章の物語のかなり後の方まで主人公のセルランはアネットがなぜそんな場所にいたか? を突き止めようとして腰を上げたりせず、昔日の回想や自分のもとを巣立ちしかける息子や娘との関係の方に関心の向きを優先させたりする。この物語の流れも深読みすればアレコレと考えられるかもしれないが、作者当人の思惑は意外に素っ気ないものだったかも。
 終盤の展開は(中略)で(中略)。いずれにしろ、なるべく素で読みたい人は、本書巻末の訳者あとがきも読まない方がよろしい。ちょっと余計なことまで言い過ぎてるので。
 ごく個人的には、212~213ページの<彼女>の物言いがすごく印象的。当該人物からのくだんの人間関係のそういう捉え方が、実にシムノンらしく思えた。
 シンプルなストーリーながら、小説好きの人々が集う読書会などで課題本にして、思いついたことをあれこれと語り合うには適当な一冊かもしれない。
 シムノンの長大な創作者としての人生(評者はまだその著作の半分も読んでませんが)。その幕引きを務めた作品のひとつとしては、これもありでしょう。

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