home

ミステリの祭典

login
宿借りの星

作家 酉島伝法
出版日2019年03月
平均点8.00点
書評数2人

No.2 8点 虫暮部
(2019/07/31 11:44登録)
 日本語を1度融解して固め直しましたという趣の文体はなかなか読みにくく牛の歩みの如き読み方を余儀なくされたが、それが逆に功を奏して拒絶反応を抑えつつゆっくり茹で上げられる蛙よろしく頭が作品世界に侵食される羽目になり、最終的に四つの眼や尻尾を持つずぶずぶぴぎゃくぱぁといった感じの生き物に感情移入して落涙するに至った経験は怪挙と呼んで差し支えないだろう。

No.1 8点 小原庄助
(2019/07/29 10:20登録)
衝撃のデビュー作「皆勤の徒」を含む第1作品集で、日本SF大賞を受賞した長編第1作は、期待を裏切らない「異様な」傑作だ。
この小説は3部からなり、地球とは異質な生態系で進化したさまざまな、あえていうなら節足動物や軟体動物を思わせる生物がうごめく世界を舞台に、「古事記」や「オデュッセイア」のような壮大な物語が展開する。
次々と現れる不思議な存在たちの姿や行動は、細部まで丁寧に描写されているが、あまりにも独創的で、戸惑う読者も多いだろう。それでも、この作品の魅力に幻惑され、堪能することは可能だ。
「前編 咒詛の果てるところ」は、ヌトロガ俱土を追放されたマガンダラの漂泊譚の形をとりながら、この世界のおきてや試練、異なる生物種間の友情などが描かれる。続く「海」は、そんな世界に卑徒が入植しようとして変質していった過去が明かされる歴史物語。最後の「後編 本日はお皮殻もよく」は、彼ら異質な生物群が暮らす御惑惺様の秘密に迫る、いわば宇宙史のドラマだ。
事無霧を散布しながら巨体を引きずるように移動する「御侃彌」、中空の胴体で空中を漂い、焼くと小気味よい食感がするという「風虹」、扨の樹の幹ほどもある長筒頭で声を響かせる「ヌダイグァン蘇俱」・・・。彼らの異様な生態や社会制度、さらには、彼らを取り囲むこれまた異様な環境など、「世界」の全てが、見慣れない漢字の交じりのおびただしい造語によって表現されている。
漢字の字面と、ルビで示された読みは読者の想像力を喚起し、さまざまなイメージを呼び起こす。そして意外にも、彼らのドラマに共感している自分に気付く。著者自身によるイラストも、リアルで不気味でありながら、どことなく愛嬌があって魅力的だ。

2レコード表示中です 書評