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ミステリの祭典

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生き残り

作家 古処誠二
出版日2018年07月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 八二一
(2021/12/18 20:55登録)
生きている兵隊の過酷な運命を乾いた筆致で描いた戦争ミステリ。真相が明らかになった瞬間に突き放されるような、あの感覚は忘れがたい。

No.1 7点 HORNET
(2019/05/02 20:21登録)
 第二次世界大戦中のビルマ戦線。日本の戦況が悪くなり、自部隊が攻撃に遭って転進してきた兵隊たちがイラワジ河にたどり着き、渡河のために河畔に散在していた。同様に戸湊伍長と2人で転進してきた丸江は、たった一人でたたずんでいる兵隊を目にする。すると戸湊伍長はその兵隊を注視し、やがて声をかけて一人でいる事情を聞く。聞けば兵隊は「ゲリラに襲われて自分以外はみな死んだ」とのことだった。「さすがに不憫だ。連れていく」という戸湊伍長。だが、兵隊が一人になった経緯を執拗に問うたり、軍隊手帖を盗み見たりと、何か兵隊に疑念を抱いているようなそぶりに丸江は不審に思う。血で血を洗う凄惨な戦場、その中で生き延びてきた兵隊にいったい何があったのか―兵隊の回想と、現在とが交互に描かれる展開で、真相が明らかにされていく。

 まずなにより、こうした大戦中の、しかもビルマ戦線という世の認知度としては比較的低いところを舞台として描かれた「ミステリ」が新鮮で、非常に面白く読めた。泥まみれで不潔、劣悪な環境で命を削る極限の状況下での人間の悲痛さと、それゆえに強くたくましく感じる言動が無駄のない筆致で描かれ、非常に力があった。
 兵隊の部隊員が次々に死んでいく中で生まれる疑念、兵隊の行動の不可解さ、そして最後に示される真相と、ミステリとしても十分な魅力で筆者の作風に圧倒された。
 面白かった。

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