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ミステリの祭典

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日本傑作推理12選(Ⅱ)
エラリー・クイーン/編

作家 アンソロジー(海外編集者)
出版日1977年09月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 6点 蟷螂の斧
(2019/08/15 18:00登録)
「神獣の爪」陳舜臣 8点・・・知人の妻が浮気?。その浮気相手が殺人容疑者に・・・短篇では勿体ないプロット。
「滑走路灯」夏樹静子 7点・・・元カレから殺人のアリバイ工作の話を聞く。彼は彼女に未練があると言うのだが。揺れ動く女性心理。
「殺意のまつり」山村美紗 7点・・・時効後、真犯人が名乗り出た。そのわけは?。オチがいい。
以下採点のみ
「駆ける男」松本清張 6点 
「凍った時間」結城昌治 4点 
「五島・福江行」石沢英太郎 6点 
「柴田巡査の奇妙なアルバイト」西村京太郎 5点 
「酒乱」笹沢左保 5点 
「自負のアリバイ」鮎川哲也 6点 
「尊属殺人事件」和久峻三 5点 
「天分」海渡英祐 5点 
「肉親の証言」佐野洋 6点 
「柴田巡査の奇妙なアルバイト」西村京太郎と「自負のアリバイ」鮎川哲也は真相が共通しており選定ミスか?(苦笑)

No.1 8点 Tetchy
(2019/03/17 00:37登録)
前作から3年を経て1977年に再度刊行された『ジャパニーズ・ゴールデン・ダズン』。EQJM委員会の序文によれば世界に日本産ミステリの普及の第一歩と意気込んで刊行された前集はアメリカでも好評を以て迎えられたようだ。前集をきっかけに日本のミステリの翻訳出版の兆しが見えたと述べている。しかしこの2019年現在から振り返ると日本のミステリが初めてエドガー賞候補に挙がったのが2004年の桐野夏生作品の『OUT』だったことを考えれば、70年代以降からそれまでの本格的な日本ミステリの海外進出はやはりそれはいくつかの代表的な作品に限られたように思える。

またクイーンが序文で述べているように、第1集の時もそうだったが、男女の恋愛の縺れを扱った作品が多い。
物語や文体などの質はいいものの、それぞれの作品が備えている動機や人間関係はほとんど同じといったところで、それが器を変えながらも行く着くところや人物間の関係は似たようなものだという印象を与えたのかもしれない。上に書いたように実際選者のクイーンも触れており、それはつまり暗にそのようなことを仄めかしているようにも取れる。

しかしそうは云いながらも1集と同じくどれも読ませる。この2回目の“黄金の12編”は実に粒ぞろいだった。見開き2ページに占める文章の割合は昨今のミステリと違い、黒色の比率はかなり高く、短い中に人物設定に不可解な謎、更に人間ドラマが凝縮されており、実にコクが深い。

そんな中、まず私のお気に入りを挙げると松本清張氏の「駆ける男」、陳舜臣氏の「神獣の爪」、佐野洋氏の「妻の証言」の3作となる。
松本氏の作品は物語自体に濃さを感じる。一連の事件の流れと事件関係者の人間関係、それぞれが濃密でじっくり読ませられるのだ。
陳氏もまた自身が中国人という出自を存分に生かした、彼にしか書けない長い年月をかけた、しかも中国人の強かさを存分に味わさせられる作品で主人公の刑事すらも舌を巻く結末に大いに感じ入るものがあった。
佐野氏は本書の中で最も短い作品でありながら、法廷劇の最中で繰り広げられる人間ドラマ、そして読者の思いもしなかった展開と最後はそれら全てが腑に落ちつつ、これまた予想外の人間関係が明かされたりとジェットコースターに乗っているかのようだった。

それら3作を抑える個人的ベストを挙げたいが、本書は第1集にも増して実に素晴らしく、1作に絞れなかった。夏樹静子氏の「滑走路灯」と山村美紗氏の「殺意のまつり」と女流作家2本に前集に引き続いて西村京太郎氏の「柴田巡査の奇妙なアルバイト」を挙げたい。
夏樹作品はまず登場人物の設定、物語の展開と登場人物たちの相関関係全てが最後の結末に奉仕しており、まさに完璧なミステリを読んだ思いがした。
山村作品は20年前の殺人事件の真犯人であると名乗る男の登場から事件の洗い出しと定番の流れを見せながら、いきなりマスコミの寵児となる怒濤の展開を見せ、最後にそんな狂騒の後始末であるかのような意外な結末が開陳される。まさに“殺意のまつり”と呼ぶに相応しい作品だった。
西村氏の作品はまず現役警察官が浮浪者援助のために自ら万引きしてそれを浮浪者の犯行にして逮捕し、双方WINWINの関係にするという着想の妙が素晴らしい。夏樹氏同様全ての設定が最後の意外な結末に生きており、全く以て隙が無いことに加え、とにかく話がユニークでクイクイ読まされる。物語全てに必要な要素が詰まった作品だ。
今ではこの3名はどちらかと云えばその名前を冠する2時間ドラマの影響もあり、いわゆる一般大衆向けミステリ作家という印象が強いが、やはり今なお語り継がれ、映像化されるだけの理由があるのだ。この3名の着想の妙は只者ではなかった。読まず嫌いでいるのは勿体ないと思ったが、流石に全ての作品をこれから読むのは無理か。

しかしこの第2集の選出作品を眺めると第1集と重複する作家が12人中6人と半数を占めるのは予想外だった(松本清張氏、夏樹静子氏、石沢英太郎氏、西村京太郎氏、笹沢左保氏、佐野洋氏)。5割は非常に高い確率である。やはり平成の世でもその名を知られる作家は真の実力者であったということだろう。その中身を読んでも選ばれるに相応しいクオリティを兼ね備えている。恐らく彼らは別格の存在だったのだ。

この頃に『このミス』など年末のランキングイベントをやっていたらどんな結果になっていたのか、実に興味深い。1年に複数作発表する作家ばかりだから、20位の中に同じ作家が2,3作含まれ、作家別で見てもこの採用率同様10名だったという結果になっていたのかもしれない。70年代は作家の実力差が離れすぎていたのかもしれない。

更に昭和感。これが実に面白く感じる。温泉旅行先での女中との密会や警察の不当な誘導尋問、更には深夜番組で登場する若い女性のセミヌードなども、まだ闇のある時代の淫靡さが行間に見え隠れしている一方で、山村作品では古い家屋が壊され、近代的でチャチな家が建てられたと云った描写もあり、時代の移り変わりを感じさせる描写もあって興味深い。

平成最後の年に昭和の作家の作品のアンソロジーを読む。この意味については次の最後の第3集を読んだ時にまた考えるとしよう。次はどんな“黄金”が待っているのだろうか。

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