home

ミステリの祭典

login
不意撃ち

作家 辻原登
出版日2018年11月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 zuso
(2023/06/06 22:37登録)
無事に定年を迎えた男に、ある密やかな欲望が芽生えて都会の中で隠棲を企む「月も隈なきは」、失踪した風俗嬢を追う男が、日常の間隙に広がるエロスの異空間に遭遇する「渡鹿野」、東北大震災の津波の映像をテレビで見ていて、「出番が来たん違う?」と犯罪へと走る「仮面」、他、現代の文豪が綴る全五編の作品集。
人生とは、運命の悪意による不意打ちなのか。悪夢小説に唸り、たじろぎ、悶々とする。

No.1 6点 猫サーカス
(2019/02/24 15:15登録)
日常の謎が主題であるが、狂気や破滅と紙一重の日常がある。風俗嬢ルミの過去を風俗店ドライバーが追う「渡鹿野」、数十年後に恨みをはらす犯罪者たちのニュースと中学時代の記憶が呼応する「いかなる因果にて」、定年後の元会社員のひそかな欲望が蠢きだす「月も隈なきは」など5編を収録している。5編を通しての主題は「運命の悪意による不意打ち」で、いついかなるときでも起こりうることを力強く問いかける。いずれの作品でも読者を日常から遠いところへと誘い込む。ひたすら精神の奥に潜むものを突き動かす暗い律動がある。一体物語はどこに運ばれていくのか、何を隠し持って突き進むのかが、不穏で怖くもあり、同時にあらがいきれない官能の戦ぎも覚えさせて、実に魅惑的。特に、実在した事件をコラージュしながら日本文学における黒髪を論じた名作「黒髪」のように、実際におきた有名な犯罪を次々に引用しながら個人的な体験の核心へと迫る。「いかなる因果にて」と、様々な文学的記憶を巧みにつないで不埒な淫蕩を軽やかな家族喜劇に転換する「月も隈なきは」が見事。

2レコード表示中です 書評