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ミステリの祭典

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千利休殺意の器

作家 長井彬
出版日1989年11月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2025/06/11 11:42登録)
井戸茶碗「筒井筒」「喜左衛門」、肩衝茶入「安国寺」「初花」、加えて鳴海織部の謎と東慶寺「葡萄蒔絵螺鈿聖餅箱」...国宝重文級の茶陶を軸に、その「ご伝来」とその美に魅せられた現代人の執念を重ね合わせにして軽いミステリ調でまとめた短編集。ニワカな評者あたりでさえ、問題の茶器の半分は美術館で実見。本作で取り上げられている「ご伝来」も世上に流布されているものをベースに、作者の想像を補っているもの。だから話のリアリティに欠けることはない。結構よくできた古美術ミステリである。

小説としては、利休の死の真相を推測して描く歴史ミステリ的な興味のものもあれば、現代での密室トリック的興味のある盗難事件とその動機、落魄しても名器をその身から離さなかった執念の話など、描き方も多彩。古美術という魔物への執念、がテーマだが、その執念からうまく身をかわした「ぬくもりの跡」がベストかな。

たしかに喜左衛門井戸の所有者が腫物で祟られるというのは有名な話で、実見してみればお化けでも中に棲んでいそうな「妖器」であることは間違いないよ。しかし、井戸って一見、煤けたような武骨な雑器の類にしか見えないもの。どれだったか草庵の飯茶碗を強奪したという伝説も聞いたことがある...こんなパラドキシカルな美の世界と分厚い伝説的な「ご伝来」、それに群がる人々の野心と物欲。ホントに絶好の小説のネタではあるのだが、「茶道具への理解」という高めのハードルがもったいないところ。儲けもののよく書けた短編集だと思うよ。「原子炉の蟹」の人がこんなピーキーな作品書いているとは思わなかった。

まさに「日本人とは破天荒な美意識を持った民族なのである」。

No.1 4点 nukkam
(2018/12/19 21:32登録)
(ネタバレなしです) 長井彬が生前に発表した短編集は3冊ありますが第1短編集にあたるのが1989年に出版された本書で、1981年から1986年にかけて書かれた6作が収められています。どの作品も茶器や聖餅箱などの美術品が重要な役割を担っているのが特徴ですが、私のような門外漢にはその魅力が理解できませんでした。現代描写と時代描写がクロスしたりしていますが、後者が事実として書かれているのか現代の作中人物の推測の世界なのかもよくわかりません。謎解き説明も証拠に基づく論理的推理ではなく、私は他の仮説を考えることもできないませんけどそれが唯一の正解だと確信することもできませんでした。

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