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ミステリの祭典

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零號琴

作家 飛浩隆
出版日2018年10月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 小原庄助
(2019/03/06 09:41登録)
どんな理屈や説得よりも、人を強く突き動かす力が、ある種の音楽にはある。宗教音楽や軍歌、行進曲、あるいはラブソングだって理性に反する行動に人を駆り立てることがある。この作品は、音楽や音色が大きな意味を持つ世界を舞台にしている。
惑星「美縟」の首都「盤記」には、大都市をすっぽり覆うほど巨大な楽器「美玉鐘」が建国の際に秘曲「零號琴」を奏でたという伝説があった。建国500年を目前に控え、この楽器の部品が出現し始めたのだ。人々は楽器を再建し、秘曲を奏でようとする。
こう紹介すると王道の神話風ファンタジーのようだし、実際、ストーリーは壮大で深遠だ。けれども登場人物は、神話のイメージからは程遠い。やたらと騒がしく、軽々しく、悪のりしやすく、ついでに美少年だったりする。ライトノベル的というか、荘重さの対極にあるのだ。
おまけに、建国500年に合わせて上演される、全市民参加の野外劇の演目は、少女向け人気アニメのタイトルによく似た「仙女旋隊 あしたもフリギア!」なる番組の最終話をアレンジした作品だという。
こんなドタバタ要素満載の設定が織りなす、世界改変の物語、笑いと衝撃と感動で読者を振り回す著者には「悪ふざけがすぎる」という称賛の言葉を贈りたい。

No.1 7点 虫暮部
(2018/11/28 10:29登録)
 際限なく広げた風呂敷で惑星規模の市街劇に美少女アニメを絡めどこまで飛んでいくかと思いきや、いつの間にか急降下していて剥いても剥いてもまだある裏設定、なにぶん600頁の大冊であるうえ読み易いとは言えない文体なので質量共に大な言霊をバリバリと齧り飲み下すのは快楽と消耗の併せ技、恐れ入谷の鬼子母神。ざっくり評すなら酉島伝法『皆勤の徒』を裏返してエンタテインメント度を高めたような印象、と言えなくもない。ふぇ~。
 作者は小松左京~山田正紀~神林長平といったラインに連なる重要作家ながら寡作。雑誌掲載後改稿に7年費やしようやく書籍化。 

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