牟家殺人事件 |
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作家 | 魔子鬼一 |
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出版日 | 2012年05月 |
平均点 | 5.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 5点 | nukkam | |
(2021/01/19 22:02登録) (ネタバレなしです) 生没年さえ不詳の、まさに幻の作家である魔子鬼一は戦時中から活動していたらしいのですが1950年、本書が新人作家の作品として雑誌掲載されました(再デビュー?)。中国を舞台にしていること自体珍しいですが、普通なら外国を舞台にしても日本人を活躍させるところを本書は登場人物が全員中国人で、タイトルの「牟家」を「ムウチャア」と読ませるほど徹底しています。もっとも異国情緒を感じられたのは序盤ぐらいでしたが。大富豪の一族(何と一夫多妻制)を襲う連続殺人というプロットは(作中でも紹介されている)フィルポッツの「赤毛のレドメイン家」(1922年)やヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」(1928年)の影響がちらつきます。ただそれらの作品と異なる個性の謎解きを意図しているのは何となく感じますけど、本格派推理小説として肝心な謎解き伏線が十分と思えなかったのが残念です。人物個性も乏しくて人間関係がわかりにくく、サスペンスも今一つでした。 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2018/11/10 17:19登録) (ネタバレなし) 1940年代。太平洋戦争時下の北京。4年間の日本留学から帰国した菜種問屋の後継ぎ、トン・ジャアウォン(実際の本文では漢字表記・以下同)青年は、幼なじみで西洋文化に憧れる19歳の娘フンミンと再会する。フンミンの父のムウ(牟)ファションは戦争景気でいっきに財を増やした大実業家で、現在の自宅の豪邸にはフンミンの実母の第二夫人をふくめて、のべ4人の夫人と同居していた。さらに居候の親族や多数の従僕を住まわせて賑わう牟家だが、そこで起こるのは奇妙な密室殺人を含む、何者かによる連続殺人の惨劇であった。 題名の読み方は「牟家(ムウチャア)殺人事件」。 ミステリー文学資料館編集の復刻発掘アンソロジー路線の一冊『「宝石」一九五〇』の巻頭に収録(初の書籍化)された、短めの長編パズラー(光文社文庫で210ページ強。400字詰め原稿用紙換算なら300~400枚くらい?)。 本作の作者・魔子鬼一(まこきいち)は、マニアには有名なミステリ関係の自主刊行物を発行している古書店・盛林堂から近年、復刻短編集が出ていて、評者はそれで名前を知った。ちなみに本作は、作者の唯一のまともな謎解き長編作品のようである。 文庫『「宝石」一九五〇』巻末の山前謙氏の解説によると、本作は1950年の「宝石」4月号に一挙掲載。当時は1949年にGHQの用紙統制が緩和された直後の時節で、その影響もあって「宝石」本誌もページ数がボリュームアップ化の一途。くだんの1950年4月号には岡田鯱彦の『薫大将と匂の宮』と本作、同時に二長編がいっきょに掲載されたそうである。なんというゼータクな時代(笑)。あるいはそういう豪快な編集&経営を続けていたから、鮎川哲也にも賞金が払えなかったのであろうか(実際のところはよく知らんが)。 それで中味だが、特殊な舞台設定の本作は、当然のごとく登場人物は全員が中国名の漢字表記。フツーならとても敷居が高い作品なのだが、評者は今年、例の漢文ミステリの話題作、陸秋槎の『元年春之祭』を少し前に読了したところ。だからこっちも、同様にナンとかなるだろと手に取った(笑)。 それでも念のため、下準備として、文庫の巻頭にある登場人物一覧表を周囲の余白大きめにコピーしておき、そこに人物のメモを書き込みながら読んだ。このおかげで最後まで読み終えるのにまったく問題はない。 (しかしなんかこの人名表、特に不要な人物まで載っている気もしたが……。) 肝心の筋運びは輪堂寺耀の快作(怪作)『十二人の抹殺者』を想起させる、豪快なまでに関係者が立て続けに死んで(殺されて)いく連続殺人劇パズラーで、良くも悪くも芝居がかった外連味がとても好ましい。登場人物の造形も特に中国っぽさは感じられないが、その分主要人物のキャラクターがそれぞれ平明に語られ、そんな叙述を拾いながら情報を消化していくうちにページはどんどん進んでいく。テンポはとても良い。 でもって最後に明かされる真相は……うん、まあ……これはたしかに21世紀まで60年間眠っていた幻の作品だねえ(苦笑)。 いや、作者がどうやって読み手を驚かせようとしたかの狙いそのものは理解できるし、その構想そのものは悪くなかったと思う。クリスティーのよく使う仕掛けもちょっと連想させる。 ただまあその意外性を盛り上げる演出としての伏線や下ごしらえに、まるで気を使ってないというか。 犯人はその動機で最後まで計画を完遂したら、結局……(中略)とか、密室殺人のトリックってコレですか……とか、終盤に明かされるあの登場人物のキャラクター設定はなんの意味があったのか……とか、ツッコミどころも満載。 なんかミステリを語りたい心は最低限持っていながら、それが送り手の中でちゃんと育つ前に一本書いちゃったというような作品だった。 まあそんな一方で、読んでる間はなかなか楽しめたのも事実。 作品総体としては誉めにくいんだけれど、どっか愛せる一編ではある。 |