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ミステリの祭典

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ヴェルフラージュ殺人事件

作家 ロイ・ヴィカーズ
出版日1958年02月
平均点4.50点
書評数2人

No.2 5点 弾十六
(2024/07/12 21:10登録)
1950年出版。
ブッシュさんの作品を「ヴィカーズ迷宮課の長篇化」と言ってる手前、ご本尊の長篇はどんなだろうか、と思っていたら国会図書館デジタルコレクション(NDLdc)でオンラインで読めることがわかって、さっそく読んでみました。
残念ながら全然、迷宮課っぽくなかったのですが、冒頭のシチュエーションが良い。でもずっとぼんやりしていてキレがない。なんだかズルズル話が進みます。主人公も頭で勝負するタイプじゃないし。
軽スリラー、という感じで巻き込まれ型の物語。中盤、終盤の工夫は結構あるけど、盛り上がりに欠ける。まあでもなかなか面白く読めた。
原文無しなので、トリビアは省略。文中「審問」とか「査問」とか「検死」とあるのはインクエストのことだろうけど、用語が統一されてなくて気になった。

No.1 4点 人並由真
(2018/11/04 22:10登録)
(ネタバレなし)
 父譲りの海運商事会社を切り回す青年社長ブルース・ヘイバーション(29歳)はその日、頭痛と目眩に悩まされていた。投薬で症状を抑えた彼は会社から車で帰宅する路上で、愛車が故障して難儀する知人の中年弁護士ヴェルフラージュに出合い、同乗させてやる。ヴェルフラージュは、15年前に物故した富豪ウイリアム・レイプソープの遺産である時価25万ポンドの秘宝「レイプソープ・ダイヤモンド」を管理していたが、その遺産の正当後継者は今まで行方不明だった。しかしその相手がようやく見つかったので、これから秘宝の現物を届けに行くという。用向きはすぐに済むということで、訪問先の家屋に入ったヴェルフラージュを路上で待つヘイバーション。だがヴェルフラージュがその家から姿を現すことはなく、気になったヘイバーションは自分からくだんの屋敷のドアを叩くが……。

 1950年の英国作品。現在のところ日本に紹介されたヴィカーズの作品では唯一の長編のハズである(他はみんな短編~短編集なので)。
 ミステリとしての物語のポイントは2つ。一つは消えてしまったヴェルフラージュの去就を追って、デクスターの『キドリントン』か土屋隆夫の『盲目の鴉』みたいな<そのキーパーソンは無事なのか? 死んだ(殺された)のか?>という興味。もうひとつは頭痛と目眩、それに服用したキニーネの副作用で半ば意識が朦朧となった主人公ヘイバーションの記憶が一時的に欠損し、アイリッシュの『黒いカーテン』みたいな<自身の行動を疑う記憶喪失もの>になる作劇。まあこういうギミックを組み合わせて当時にしてはちょっと破格の謎解きサスペンスを語ろうとする作者の狙いどころはわかる。なんか創元の旧クライムクラブ(もちろん翻訳の方)の一冊にまじっていてもおかしくない感じ。

 ただまあ作劇のこなれが良いかというとその辺は疑問で、本来は他人事のややこしい秘宝争奪戦に踏み込んでいくヘイバーションの心情はあまりピンとこないし、一方でヴェルフラージュの失踪の追跡にもそれほど筆致は費やされないものだから、物語の軸足が見えてこない。さすがに自分の失われた記憶をおっかけるドラマの方はそこそこ起伏のある展開を見せるが、その分、物語の楽しみどころが散漫になった印象もある。
 それと本作の物語は三人称視点でほぼヘイバーションを主体に進行するものの、序盤から登場する副主人公格のロンドン警視庁の警部カイルの視点が随時いきなり叙述のなかに挟み込まれ、この辺りの消化の悪さも結構気に障った。
 ちなみにカイルの方の描写だけ拾っていくとちょっとクロフツっぽいなと思ったけど、解説で都筑道夫は本作をフレッチャー作品の系譜云々と語っており、なるほどフレッチャー&クロフツなら英国ミステリの大系としてリンクするな。
 結局、最後の解決もどうもなんか悪い意味でごくフツーに終ってしまった感じで、面白かったか? と訊かれれば……正直、う~ん。
 色々となんかありそうに始まってそれっぽく物語も進んで、とどのつまり……の一冊であった。ということでこの評点(涙)。

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