死の実況放送をお茶の間へ |
---|
作家 | パット・マガー |
---|---|
出版日 | 2018年10月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 5点 | 人並由真 | |
(2019/01/20 03:37登録) 実はマガー作品は、こないだの『不条理な殺人』が初読み。本書が二冊目。肝心の初期5冊は、ぶらっく選書の『怖るべき娘達』を初めとして大昔から購入しておきながら、十年単位でずっと積ん読という、我ながら呆れた経歴だったのだ(笑・汗)。 つーわけで最近、オズオズと読んだ、2018年の新刊として邦訳されたマガー作品二冊のうちの片方ですが、これはトータルとしてはまあまあでないかと。 肝心の殺人がなかなか起こらず、そこに行くまでの1950年代テレビ局の現場描写もそんなに面白くはない。もうちょっと、当時なりの放送文化への興味を満たす新鮮な情報をもらえるのかと思っていたら、作者は悪い意味で登場人物の配置の方で勝負しようとしている感じ。もっとテレビ局の内幕という舞台設定を活かした読みどころが欲しかった。 ミステリとしての真相や犯人も、二つ目の事件が生じたところで概ね察しはつくし、実際にソレで当たり。素人探偵役のキャラクターも、なぜ彼の推理を警察側が比較的スムーズに聞こうとするのか、ちょっと違和感を抱いた。 ただまあ、伏線のうちのひとつ、犯人のある行動を解析する探偵役の思考はなかなか秀逸。犯人捜しよりも、『コロンボ』などの倒叙もので探偵役がドヤ顔で指摘しそうな、犯人側のうっかりであった。 あとは主人公ヒロインとボーイフレンドのじれったいラブコメ模様が、ちょっぴり読み手の興味を牽引する。エロ抜きの社会人女性向けの恋愛レディスコミックみたいな味わいなんだけど。 で、自分は前述のとおりマガーの技巧的な初期5作はまだ未読なんだけど、とにもかくにも、もう未訳の中にはその手のテクニカルなものは残ってないみたいね。 初めからそう分かっているなら、今後もし邦訳があったとしてもそれはそれで気楽に付き合える。 個人的には、むかしミステリマガジンなどに何編か紹介された、女性スパイ、セレナ・ミードものの連作短編がまとめて読みたいな。論創さん、創元さん、ひとつそっちの方向でのご検討を、お願いします。 |
No.1 | 5点 | nukkam | |
(2018/11/01 22:38登録) (ネタバレなしです) デビュー作の「被害者を捜せ!」(1946年)から「四人の女」(1950年)まで被害者は誰かとか探偵は誰かとか目撃者は誰かとの異色の本格派推理小説を書いてきたマガーが、犯人は誰かの伝統的本格派推理小説として1951年に発表したのが長編第6作である本書です。ラジオ放送中の殺人を描いたヴァル・ギールグッド&ホルト・マーヴェルの「放送中の死」(1934年)に影響を受けたかはわかりませんが、本書ではテレビ番組放送中の殺人を扱っています。大勢の視聴者(100万人以上?)がその場面をテレビ画面越しに見ており、それがタイトルの由来でもあるのですが劇的効果はそれほどでもありません。またどういうプログラムにするかで関係者同士が揉めているので仕方ない面もあるのですが、番組の制作準備描写もわかりにくかったです。人物描写に関しては作者の手腕が冴えわたっており、終盤のサスペンスも秀逸です。推理が人間観察と心理分析に拠っているのもこの作者らしいのですが(探偵役も認めているように)具体的証拠に乏しいのは(それも作者らしいのですけど)もう少し工夫があればと思わずにいられません。 |