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ミステリの祭典

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わたしを深く埋めて
スカット・ジョーダン弁護士

作家 ハロルド・Q・マスル
出版日1962年01月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 7点 人並由真
(2020/08/08 14:46登録)
(ネタバレなし)
「ぼく」ことニューヨークの青年弁護士スカット・ジョーダンは、マイアミでの休暇を切り上げて早めに自宅のアパートに帰参する。だがそこで待っていたのは、黒い下着のみをまとう見知らぬ美女だった。美女は勝手に酒に酔いつぶれ、旅行帰りで疲労しているジョーダンは流しのタクシーに10ドル渡して彼女を預け、目が覚めたら自宅を聞いて送り届けてほしいと依頼。ようやく眠れると思ったジョーダンだが、またも初対面の面々が来訪。さらにしばらくして警察と先のタクシー運転手が現れ、あの美女がタクシーの中で毒によって絶命した、と告げる。驚くジョーダンだが、事件はさらに大きく広がりを見せていく。

 1947年のアメリカ作品。日本にも来訪したことのある弁護士作家マスル(マスゥール)の作品で、20年の活躍期間のうちに全10冊と意外に冊数は少ない、弁護士探偵スカット(スコット)・ジョーダンものの第一弾。
 手にしたポケミスの初版はどうも厚めに見えるが、実際の総ページ数は本文280ページちょっとで、そんなでもない。いつものポケミスとは違う、斤量の多い紙を使っている感じだ。

 毒殺された美女ダンサー、ヴァーナ・フォードは、ある目的のためにジョーダンの留守中に自宅に侵入。しかしその行為とは別に、別の大きな案件に関わっていたことが次第に明らかになり、ストーリーの裾野が広がっていく。ちょっとややこしめに見えるプロットだが、作中の登場人物が多い割にそのほぼ全員が実にくっきりしたキャラクターとして書かれて、物語を理解させるリーダビリティはかなり高い。また話造りも実に面白い。

 ポケミスの解説によるとこの処女作の原書(サイモン&シャスターから刊行)は本国で100万部売れた(!)上に六か国語に翻訳されたそうで、ホントかよ!? とも思ったが、まあ第二次大戦を経て平和になった時代に登場したイキのいい&よくできたルーキー作品として好評を博したのだろう。

 殺人事件の真相は「あ、そっち?」という感じの意外性。nukkamさんがおっしゃるように確かに必然的なロジックはちょっと弱いんだけれど、一方で、真犯人の意外な動機については、とある形で読者に前もってインスピレーションが働くように示唆が与えられているように思う。そういう意味で、謎解きミステリとしてもよく出来た作品ではないか。
 このシリーズも少しずつ読み進めていこう。

No.1 5点 nukkam
(2018/11/01 22:01登録)
(ネタバレなしです) 米国のハロルド・Q・マスル(1909-2005)は弁護士出身の作家で、弁護士スカット・ジョーダン(スコットの表記もあります)のシリーズを書いたことからペリイ・メイスンシリーズで有名なE・S・ガードナーと比べられることもあるようです。もっとも多作家のガードナーに比べてマスルはむしろ寡作家で、長命だったにも関わらず残された作品は長編20作にも満たなかったです。1930年代後半から短編を発表していたマスルの初長編が1947年発表の本書です。マスルは作風が軽ハードボイルドとか通俗サスペンスと評されているようですが、本書ではアパートに帰宅したジョーダンを下着姿の女性が待ち構えている冒頭からして確かにそういう雰囲気が漂っています。前半の謎づくりは結構読ませるし巧妙なミスディレクションがあったりと本格派推理小説の要素もそれなりにありますがジョーダンの説明はこれならつじつまが合うというレベルで、謎解き伏線を回収しながらの推理ではありません。銃を持ったならず者による殺人場面(そこには何の謎もありません)などのアクションシーンや(濃厚描写ではありませんが)ベッドシーンなどの通俗性は読者の好き嫌いが分かれそうです。

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