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ミステリの祭典

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疑問の黒枠

作家 小酒井不木
出版日1956年01月
平均点6.00点
書評数3人

No.3 6点 クリスティ再読
(2026/03/12 20:42登録)
小酒井不木の代表作として有名な作品。確か中学生の時に読んでるんだ。愛知県だからご当地作家、という理由なのか市立図書館に不木全集があって、それで。懐かしい。ちなみにチェスタートンの「孔雀の樹」が同じ巻だった気がしたので、調べたら改造社(1930)のものなんだ。古びた本だった記憶があるから、そうなんだろうな。

改めて内容。名古屋在住の企業家が連続して生きているのに訃報記事が新聞に掲載される。三人目の村井氏は悪ノリして自分の生前葬を行うことに...しかし葬儀を終えたときに復活するはずの村井氏は死体として発見された!

とまあ、ツカミはオッケーな話。法医学者小窪教授やらその助手の肥後、容疑がかかる押毛といった人々がみな探偵小説マニア(笑)。「新青年」やら「探偵趣味」やら当時の雑誌が作中で話題に上がる。当時の名古屋での探偵小説ファンコミュニティを舞台にした作品と言うのも、間違ってないだろう。実際、不木自身を投影したと思しき小窪教授は、ミステリと現実の法医学のさまざまな犯罪捜査を語ったうえで、

殺人 = 犯人の心 ― 被害者の心

と「殺人方程式」なんてアイデアを吹いてくれる!いいなあこういう稚気。

評者名古屋は土地勘があるから、鶴舞公園の名大病院やら、大須の演芸場、名駅、中村遊郭といった名古屋の昔の姿が懐かしい。そんな名古屋の街でさまざまな登場人物たちの思惑が交錯する。意外なくらいにモダン・ディティクティヴ。ちなみに不木自身は東北大教授を拝命したけど健康悪化で実家の名古屋に戻ったから、名古屋大学には奉職していない。しかし、木下杢太郎が皮膚科の教授で交友があったから、研究室の様子など実体験なのだろうね。

一般の人が探偵小説を好む理由は、つまり、各人に備わっている殺人意志を和らげる為だよ。旧式な言葉で言うのならば、探偵小説によって殺人欲を満足させようとするのだ。(中略)従って探偵小説の愛好者は実際のいわゆる悪事を行わない。

この小窪教授の言に、啓蒙期のマニアたちの想いがまさに結晶している。

No.2 6点 人並由真
(2020/09/17 10:50登録)
(ネタバレなし)
 その年の10月の名古屋。実際にはまだ健在な金持ちの死亡告知記事が、相次いで新聞に掲載される。しかし怪事の三人目の被害者で大会社「村井商事」の社主である当年60歳の村井喜七郎は、この珍事を面白がり、菩提所・東円寺の住職の協力をとりつけながら実際に葬儀を行おうとする。喜七郎は葬儀の場に奇術師・旭日斎松華を招いて趣向も考えるが、そこで生じたのは当人も予期しない出来事だった。

 昭和2年の作品で、オリジナルの創作物としては日本最初の長編ミステリという見識もある一編。浅学の評者でも作者・小酒井不木については本当にわずかばかりの知識はあり、以前から関心はあったが、このたび「別冊幻影城」の小酒井不木編で読了した。

 一読、これが本当に本邦最古の長編だったのか!? と驚かされるような仕掛けと趣向に富んだミステリで、その豊潤な内容に感嘆した。作品の方向としては謎解きの興味がそれなり以上にあるスリラーという趣だが、起伏の豊かな展開、特に中盤以降の登場人物の意外性のあるポジショニングに独特な感興を覚える。
 前述のように評者の不木観はまだまだ貧弱なものだが、それでもこの一編を著するに至ったこの時点の作者の海外ミステリをかなり読み込んだ確かな素養は実感する(実際、物語の冒頭はソーンダイクの探偵法に触れる法医学者・小窪介三の会話で開幕。物語の中盤にはチェスタートンの『知りすぎた男』の話題も登場する)。
 
 終盤に至る意外性や物語のテンションを求めるあまり、多少の無理筋、さらに伏線の張り方やものの考えの詰め方の甘いところは見受けられる気もするが、とにもかくにも昭和最初期に書かれた、全ての国産長編ミステリの先駆という事実を考えればエレガントな出来だという評価をするにやぶさかではない。
 登場人物もそんなに多くないし、文章も時代を考えればかなり平明。国産ミステリファンは、趣味を楽しむ上の素養として機会を見て触れておくのもよいと思う。

No.1 6点 nukkam
(2018/10/11 21:10登録)
(ネタバレなしです) 早逝が惜しまれる小酒井不木(こさかいふぼく)(1890-1929)は医学者でありますが海外留学中にミステリーに目覚め、国内ミステリーの父と呼ばれる森下雨村と共に江戸川乱歩のデビューを後押ししたことで知られます。海外ミステリーの翻訳にも携わっていますが現代でも入手が難しそうなスウェーデンのS・A・ドゥーゼの作品を翻訳したというのはとても不思議ですね。小説家としてのデビューは乱歩より後発で、活動時期は最晩年の約4年間に留まりますが100作近い短編を書き、その中には国内初のSF小説もあるそうです。1927年発表の本書は唯一の長編ミステリーで国内初の長編ミステリーと評価している文献もあります。これには異説もあって黒岩涙香の作品こそ国内初と主張する文献もありますが、黒岩の長編は海外ミステリーの翻案小説なので創作小説である本書と同列にはできないのではと思います。本書のプロットですが、まだ存命中の人の死亡広告が新聞に載る事件が3件続きます。3件目の被害者がこのいたずら(?)に便乗して自分の葬式を企画するのですが、棺桶の中で死んだふりをしているはずの彼が本当に死体となっていたという事件が起きます。さらに彼の家族、事件の鍵を握ると疑われた人物、そして被害者が飲んだと思われる丸薬の残りが次々と消えてしまう展開に読者は引きずり込まれます。大袈裟な芝居のような言動が気になったり、容疑者として残すのか外すのかの推理が根拠不十分だったりと問題点もありますが国内ミステリー黎明期の作品としては予想以上によく出来た本格派推理小説だと思います。私の読んだ河出文庫版は現代仮名遣いに改訂されていて読みやすくなっています。

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