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ミステリの祭典

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地獄島の要塞

作家 ジャック・ヒギンズ
出版日1974年08月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 斎藤警部
(2025/08/11 21:30登録)
「やりたければ自分でギリシャを救えばいいさ」

この物語にはギリシャ人のメロスが登場する。 いつ激怒するとも知れない。

ギリシャとトルコは仲が悪い。 ギリシャ国内にも現政権と反対派がいる。 彼らとてそれぞれ一枚岩なはずがない。 そんな中、ギリシャの或る政治的人物を、捕縛されている島の要塞から奪還して欲しいとの依頼を受けたのが、本篇主人公のアイルランド人。 相棒はトルコ人。 英国軍に参加し将校となったが、事件を起こし退役。 その後は潜水の技術を生かしサルベージの仕事などこなしていたが、その環境でも様々な冒険物語の経緯を潜り抜け、、 今では海中の海綿獲りなる先細り産業の末端で日々をしのいでいる。

そこへ莫大な報酬と共に前述の “仕事” を持ち掛けて来たのが、船舶王と呼ばれるギリシャの大富豪。 人の目を引かずにおかない破格の体格を持つ彼は、しかしながら強度の暴力恐怖症を患っており、その肉体の動的ポテンシャルを全く使えずにいる。 船舶王の亡妻の妹、わずか19歳、貴族の血を引く絶世の美女は、主人公を含む周囲の男たちを魅惑してやまないが、一方で或る “致命的弱点” に苛まれていた。

“子供の遊びを大人がやると、多数の人間の死を招くのだ。 糞くらえだ。”

一度は ”仕事” を断った主人公は、一波乱あり、結局は受ける事にした。 頼りになる相棒も一緒だ。
怪しい奴もいる。 際どい奴もいる。 当局の者もいる。 そこには熱い謎と冒険がある。

“恐怖感はやってきたときのスピード感で消え去っていった。”

ストーリーに一本ぶっとい幹が聳え立っているようでもなく、オムニバス型の要素さえ匂わすエピソード色々の愉しい冒険物語といった風情。
だが終盤近くまで行ってやっと燃え上がる、物語のメインステージたる冒険事象のうねりにうねるアクション&ミステリ展開は強力だ。
ただ、tider-tigerさんも仰ったように、この最後の冒険(要塞潜入~帰還)がストーリーの主軸として小説全体を纏め上げているわけではなく
> あちこちつまむバイキング形式な作品。もちろんバイキングにはバイキングの良さがある。
なる巧いコメントには全面共感します。 スライ&ザ・ファミリー・ストーンのアルバムに喩えれば 「スタンド!」 より 「ライフ」 な感じです。 後者の方が好きですが。

同じくtider-tigerさん
> ヒロインが19歳というのはちょっと無理があるように感じた
その通りですよね・・ いくら貴族とは言え。
それに、彼女が主人公とさほどの障害も無く呆気なくツルッといい仲になっちゃって、ストーリー的に何かいい事あったのかな。
彼女も年相応に “相棒” の長男あたりと付き合えばいいのに。 そいで主人公も相棒も時々コミカルに嫉妬するくらいが良かった。

でもやっぱり本作は広義のミステリ。 最後に登場する意外な(!!)ヒーロー(ズ)、これにはぐっと来ます。 眩しいのは相棒との友情だけじゃないんです。
もちろん、そこから繋ぐ緊迫のワンシーンに、彼らの去り際。 そして(ちょっと甘い)ラスト。
終盤、船上でコーヒーを淹れるシーン、そこにウィスキーをチョイ混ぜて飲むシーンも最高に良かったね。

さて或る重要登場人物が、ミステリ的にずいぶん思わせぶりな発言や態度を、ずいぶん思わせぶりなタイミングで晒したなあ、と思ったものですが・・
あれはつまり、その人はナニを疑ってました、ってことだったのか・・

No.1 6点 tider-tiger
(2023/02/19 01:28登録)
~ジャック・サヴェージはエジプトでサルベージの仕事を請け負い、かなりの成功を収めていたが、部下の一人がイスラエルのスパイであることが発覚、着のみ着のままエジプトからエーゲ海へと逃げ出す事態に陥った。そんな彼にギリシアの反体制派勢力からちょっぴり危険なオファーが舞い込んだ。連中はサヴェージの軍歴に目をつけたのであった。

1970年イギリス。ヒギンズの本邦初登場の作品。1967~1968年頃、第三次中東戦争のすぐ後という時代設定の元で潜水夫が活躍する話。本作あたりからヒギンズは頭角を表しはじめたとされているらしい。確かに60年代の諸作よりもレベルアップした感があって充分に面白いのだが、秀作というにはもう一歩というところ。

裏表紙のあらすじでは鉄壁強固な要塞への潜入がストーリーの主軸であるかのように書かれているが、ぜんぜんそんなことはなくて、むしろ要塞潜入はそれほど印象的なパートではなかった。良いところは他にある。
前半は面白く読めるが一貫性に欠けるきらいがあって、物語の波に滑らかに乗ることができない。コース料理ではなくて、あちこちつまむバイキング形式な作品。もちろんバイキングにはバイキングの良さがある。
キャラについては人物像はまあまあ描けてはいても、彼らを使い切れていない。
また、ヒロインが19歳というのはちょっと無理があるように感じた。アイルランド人がからむとヒギンズの筆は過剰に走りがちだが、本作では主人公のアイルランド人属性が物語にほどよく溶け込んでいた。

「地獄島は味覚糖よりも甘い」は言い過ぎにしても、どうにも『地獄島の要塞』なるタイトルには違和感ありありである。
原題は『Night Judgement at Sinos』このくらいがちょうど良い。
以下の言葉がタイトルに使われている―特に翻訳もの―場合は注意が必要だと思っている。原題を必ず確認する習慣をつけたい。
『悪夢』『恐怖』『悪魔』『地獄』他、まだまだあるぞ。

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