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ミステリの祭典

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脂のしたたり

作家 黒岩重吾
出版日1962年01月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2022/01/08 22:45登録)
親が買ってきた本で家にあったから、中学生くらいで読んだ記憶がある...超絶大人向けだから無謀にも程がある。その後大阪に住んで、株の一つや二つは持ってる身分になるとは、思ってもみなかった(苦笑)

主人公は北浜の証券会社の社員で、映画会社株の不審な買い注文から株式の買占めの開始に気づく。その買主は人目を惹く美貌の女性だった。主人公の色と欲を絡めつつも、仕手の黒幕と情報屋の不審な事故死の調査を通じ、主人公は闇の世界に深入りしていく...
黒岩重吾だから主人公は単純な善玉ではなくて、客の株券を担保に入れて自分が手張りをするとかね(ヲイ!)。主人公はこの調査を基にターゲットの映画会社とも駆け引きするのだが、半身不随の映画会社の女社主が「女怪」と言われるような食えない老女。黒幕を明かすのを条件に、中堅スターを一晩貸すように要求する主人公も主人公だが、敢て貸しちゃう女社主にも思惑あり...いやいや、世の中のウラの小汚いあたりを活写するのが黒岩重吾の真面目。自分の欲望で動く主人公なのが、やはりハードボイルド風の味わいを醸し出している。

で、二重人格のようなヒロイン雪子が「石の肌の女」と形容される出色のキャラで、金にも女にも強いはずの主人公が手玉に取られてる。でもこのヒロインの捨て身の復讐の行方は? あと元同僚で今は情報屋の片腕になっている、男に負けないよう突っ張る敏子、主人公の客で手張りのネタに使われるけど主人公に恋着して事件を起こす深情けの中年女の文子、巨大キャバレーのホステスで主人公とスポーツ感覚でSEXする美代。脇を固める女性たちも生彩があって、なかなかお盛ん。
千人のホステスを抱えて大規模なショーがある巨大キャバレーもそうだけど、昔って「株券」ってあったな~というのが懐かしいあたり。今じゃ電子データなのが味気ない(苦笑)

「金の話をする人に、お金は入らないわ。入る人は黙って儲けている」

ごもっとも。これ真理。

No.1 7点 斎藤警部
(2018/09/10 23:40登録)
「そうね、何時もそう思って生きているから、運も強いのね。私も見習わなくちゃ」

昼間っから情婦(おんな)の部屋にシケこむ証券マン。とある斜陽映画会社株買占めの噂を握った彼は、ゆくゆくは巨万の富と痛いくらいの自由を手中とすべく数多の女たちの様々な助力を得て爆発的成功への階段を上り続けるが。。。。

とまあ、色と欲まっしぐらの男が主人公なんですが、金の力で女どもを組み伏せようとする脂ぎったくそおやじがフォッフォッ。。とほくそ笑むのではなく元々女性にモテる若い男(昭和三十年代の30ちょいだから年増に差し掛かってるか)が最高にシビれるスリルを求めて投機の道へ、、、って筋のせいか何とも意外に爽やかな口当たり。 次々に登場する女達の造形も技巧豊かに描き分けられておる。それなりに穏当な女やちょっとヤバい女、可愛い女に凛とした女、美人女優、色々いるが、中でもいちばんキッツいのは。。。 まとにかく、川崎フロンターレのパス回しの様な主人公の女崩し高等篇にはグッと来ますよ。ややこし伏字の思わせぶりに笑っちゃう箇所もあり素敵。

株価吊り上げの黒幕は誰か、そいつを黒幕にした過去とは何か、経済スリラーの味わいと速力で犯罪めいた何物かが蠢き喘いでそうこうするうち、靄の掛かった人間関係の隙を突き、事業陰謀の見え隠れの端に、いずれ起こるわけです、殺人が。(嗚呼、この被害者。。。。) 比較的展開のゆったりした前4/5くらいでさえ全くタレること無く激しく面白いんだけど、最後1/5で突如加速するスリルがもうね、たまらんのですよ。エンディングも。。。いや、言いません。 まぁ読んでみんさい。 株式市場、熱過ぎるぜ。

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