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ミステリの祭典

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競馬シリーズ

作家 ディック・フランシス
出版日1991年11月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 5点 ことは
(2021/08/28 21:13登録)
中期のフランシスをいくつか読んでみようと考えて、2冊目として手にとった。
意外なことに家庭内サスペンス。フランシスらしいのは、主人公の造形と、家庭が厩舎であること。事件の構成は、クリスティー作品にもありそうなもの。
家庭内サスペンスは好みでないので、全体的にいまひとつだった。
主人公が陥るラストの苦境は読み応えがあったが、それ以外の部分はいまひとつ。解決の付け方も気に入らない。
でも、もう少し中期のフランシスはいくつか読んでみよう。

No.1 7点
(2018/10/21 19:51登録)
 寒波で下宿を追い出された作家志望のサヴァイヴァル専門家ジョン・ケンドルは、窮余の一策として名調教師トレメイン・ヴィッカーズの伝記を、住み込みで書き上げる仕事を請けた。が、レディング駅に彼を迎えに来た人々の表情は暗かった。パーティ会場で起きた変死事件の後始末に疲れ果てていたのだ。
 トレメインの厩舎のあるバークシャー州の丘陵地帯〈ダウンズ〉に車を走らせる一行。その途次、凍結路面で起きたスリップ事故から皆を救ったケンドルは、瞬く間に人々の中に溶け込んでいく。ダウンズでの生活とトレメインの闊達さ、馬たちとの触れ合いに、彼は新たな執筆意欲を掻き立てられるのだった。
 だが半年前に失踪した厩務員の女性、アンジェラ・ブリッケルの白骨死体が発見され、風向きは変化した。彼女はパーティ席で死んだ女性、オリンピア同様扼殺されていたのだ。殺人事件の捜査を開始するテムズ・ヴァリイ署のドゥーン警部。一方、すっかりヴィッカーズ家に馴染んだケンドルの周囲にも不穏な気配が漂い始める・・・。
 競馬シリーズ第29作。「わあ、痛そう」というのが主な感想。主人公はMASTERキートンなサヴァイヴァルのプロですが、そんなもん関係無いくらいエグい危機が彼を襲います。全作を読破した訳ではないですが、ここまでデンジャラスな肉体的ピンチを描いた競馬シリーズはおそらく無いのではないでしょうか。原題"LONGSHOT"も非常に意味深。
 フランシスの悪役は自己顕示欲の強い強圧的なタイプが多いですが、本作のテーマは"静かに迫る危機"。この殺人者は辛抱強く機会を窺い、短慮に走らず決してミスを犯しません。途中、ボートハウスに罠を仕掛けた犯人が確認に訪れるシーンがありますが、非常に静かで不気味です。いつもとは別種の怖さと言っていいでしょう。シェラートンでのケンドルの充実した執筆生活と、この恐ろしさとのギャップが本書の持ち味。
 魅力的な登場人物に加え、じっくりと馬たちや調教師の日課が描かれるのもグッド。第26作「黄金」と並んで、フランシス円熟期を代表する佳作です。

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