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ミステリの祭典

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絞首台の黙示録

作家 神林長平
出版日2015年10月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 メルカトル
(2018/07/27 21:53登録)
一読後、奇妙な小説だと思いました。面白いかどうかという観点に立てば、面白くはないです。しかし、これまで体験したことのないような不確かな、不安定な気分にさせられる作品であることは間違いありません。
信仰、宗教、意識、死、憑依、クローンなどのガジェットが入り乱れ、混沌とした世界を繰り広げ、何度も何度も繰り返し同じテーマが議論される様は、まさに堂々巡りの様相を呈しています。作者はそれを否定していますが、普通の作家が10ページで書くことを、この人はその何倍ものページ数を割いて、執拗に読者を追い詰めようとします。というか、自分で自分の首を絞めているような気さえします。

結局何がどうなったのか、誰が誰なのか、どのような世界観を体現しようとしているのか、細心の注意を払って読まなければ最後の最後まで分かりません。じっくり読んでも、おそらく作者の意図していることを十全に理解できる読者はほとんどいないかもしれません。
ジャンルとしてはSFだとは思いますが、幻想小説の色も濃く、何とも言いようのない怪作ということになるでしょうか。
断っておきますが、本作は万人受けする作品ではありません。多少頭が痛くなっても未体験ゾーンを味わってみたい人のみ読まれるのがよろしいかと思います。

No.1 7点 小原庄助
(2018/07/07 10:18登録)
死刑執行を間近に控えた死刑囚の思考というショッキングな視点から始まる。彼は最後の意地を見せるかのように、教誨師を相手に、神は虚構だと説きながら死んでいく。ところが・・・。
ある作家が、連絡の取れなくなった父の安否を確認するために久しぶりに帰省してみると、仏壇には自分の遺影が飾られている。しかもそこに、自分そっくりの男が現れ、「自分こそは本物のお前だ」と言い張る。
男は死んだはずの双子の兄なのか。それとも養父を殺した死刑囚の蘇りか。自分が乗っ取られそうな恐怖の中、元死刑囚かもしれない男と一対一で向き合う恐怖。死と自己認識をめぐる観念的な応酬が続くうち、次第に秘密の生体実験の存在が浮上する。
「もう一人の自分」はクローン人間なのか。それとも死刑囚のクローン、あるいは他人の意識を移植された存在なのか。時空も微妙に歪んでいる世界で、教誨師を交えて深まる議論は科学的次元と宗教的・神秘主義的空間が複雑に絡み合い、迷宮の様相を呈する。
自身の体験と主観からしか世界を把握できない不確かな人間は、真実にたどり着けるのか。手に汗握る先には切ない結末が待っている。

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