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ミステリの祭典

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ディア・ペイシェント
改題/『ディア・ペイシェント 絆のカルテ』

作家 南杏子
出版日2018年01月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 5点 zuso
(2023/09/17 22:45登録)
真野千晶は医療法人社団医新会・佐々井記念病院に勤める内科医である。患者の利益が何よりも優先するということを求められており、言葉遣いに気を配り、笑顔を作るトレーニングが従業員に課せられている。
そんな千晶の前にストーカーとなって付け狙うモンスター・ペイシェントの座間敦司が現れた。私物が盗まれ、盗撮され、ネットに悪口が書き込まれる。彼の目的は何か、恐怖の駆け引きが始まる。病院という組織のバックヤードで起こる問題を真っ向から世間に突きつける問題作である。

No.1 7点 小原庄助
(2018/05/05 09:09登録)
自己中心的で理不尽な要求をする患者と医療の今を鋭く射抜いたサスペンス。
真野千晶は佐々井記念病院に勤務する内科医だが、「患者優先」を唱える事務長のもと病院はサービス業と捉えられ、押し寄せる診察のみならず、わがままな患者の対応に時間をとられ疲弊していた。なかでも執拗な嫌がらせをする座間という患者に恐怖を覚えた。先輩医師の浜口陽子が励ましてくれるが、浜口も医療訴訟を抱えていた。
座間が、不気味なキャラクターを見せてなかなか怖い。追い込まれていく千晶の心理も説得力があり緊張感も高いし、事件の裏側にあるものが見えてくる過程も巧み。だが一番読ませるのは、病気と向き合う医師と患者の姿勢だろう。訴訟にまで発展する治療問題の内実を医師側から真摯に問いかけている(浜口の訴訟を巡る脇筋も印象深い)。
千晶の父親が「治すための医療だけじゃなくて、幸せに生きるための医療」とは何かを訴える場面には胸が熱くなる。これを読むと医師への見方、そして患者の心構えも変わるだろう。医療への信頼を改めて抱かせる力強く劇的な物語だ。

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