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ミステリの祭典

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月見月理解の探偵殺人
月見月理解

作家 明月千里
出版日2009年12月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 メルカトル
(2018/06/28 22:32登録)
とにかく探偵役の理解のキャラが濃すぎて若干付いて行けないなと感じるのは私だけでしょうか。それに比べてワトソン役の都築初の平凡さが際立って、逆に感情移入してしまう、これは作者の計算なのだろうか。とは言え、彼こそが超人理解の頭脳のキャパを超えてしまうほどの人格の持ち主だという事実は皮肉とも取れます。
初以外のあらゆる登場人物を敵に回しての、理解の見事というか破天荒な立ち居振る舞いが一つの読みどころとなっています。まあそれ以外、この風変わりな物語の推進力足り得るものは見当たらないわけで、そこはやむを得ないところですが。

つまり、事件そのものは特筆すべき点はなく、謎らしきものが見当たらないため、そこにトリックめいた仕掛けがあるとはとても思えないのです。道中、理解と初の容疑者への尾行を中心とするアプローチに終始します。またサブストーリーとして理解対その他の生徒という図式が描かれ歪んだ青春模様を織り成します。それとともに探偵と助手の微妙な関係も綴られ、心理戦の一面をも見せます。
この段階で残念ながら、私は本作がいかにも平凡なラノベで終わってしまうのを予感しました。
ところが、残りページも僅かとなりいよいよ解決編へと突入したのちは、予想もしえなかった怒涛の展開へともつれ込みます。正直舐めてました。

一応伏線は回収され、本格ミステリとしての体裁を保ちますが、理解の能力をもってすれば途中経過など茶番劇に過ぎず、早々に真相を見破ってしまえたのだろうと思われてなりません。その意味で初の一人称で描かれたのは正解だったでしょうね。

No.1 6点 人並由真
(2018/04/25 21:10登録)
(ネタバレなし)
「僕」こと高校二年生の都築初(うい)は、ある日、車椅子に乗った転校生の美少女「君筒木衣理香」と対面する。攻撃的な毒舌でクラス中の大半を瞬時に敵に回す転校生。そんな彼女が初だけに語るもう一つの名は「月見月理解」。理解は、とある殺人&推理もののネットゲームでほぼ不敗を誇った伝説的な人物だが、その彼女を唯一破った相手こそ実は初だった。理解は自分が秘密の組織「月見月家」から派遣されてきた探偵であり、初の父親・一が2年前に墜落死した真相を、初と勝負する推理ゲームの形式で暴くと語る。そしてそんな理解が早くも挙げた犯人の名。それは思いもかけない人物だった。

 先にレビューした鏑矢竜の『ファミ・コン!』同様、自分が所属するミステリサークル「SRの会」の会誌の<ミステリファンの間であまり話題にならないこの30年内の秀作>特集のなかで題名が上がった一冊。
 とはいえミステリラノベとして一般にはそれなり以上に人気作だったようで、全5冊のシリーズが書かれて初期編をもとにしたコミカライズもされているようである。
 キャラの立った(それは今風のラノベジャンルの枠内で、だが)登場人物同士のやりとりが、なかなか際どい流れで徐々に進行。血生臭いとかそういう方向ではなく、作中人物それぞれの心のひだにズケズケと踏み込み合う感覚はなかなか読み応えがある。とまれ一方でページをめくっていくごとに残りの紙幅も減じていくわけで、それゆえこれはミステリとしてはそんなに大きな仕掛けはないな、と中盤で思いきや、作者はそれなりの「言いたいこと」を終盤に二段構えで用意しており、そこがこの作品の価値となる。

 ミステリとしては60~70点くらいだろうが、それをやや苦みのある(しかし切なさも感じる)青春ラノベの中に組み込んだという意味で、本一冊としての評価はもうちょっと上がる。そんな作品。
 しかしおそろしく後を引くな。成分は違うものの涼宮ハルヒあたりによく似たベクトルを感じさせる周囲をかき回すヒロインで、こういう子はフィクションキャラクターとしてとても好みだわ(笑)。近いうちに続きも読むであろう。

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