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ミステリの祭典

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プロローグ

作家 円城塔
出版日2015年11月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 虫暮部
(2018/03/29 12:49登録)
 登場人物への感情移入の延長として自分が猫や神や異星人である気分になる本はたまにあるが、“プログラムになる”という疑似体験は初。表と裏がめまぐるしく入れ替わり、無計画な増築のようにいつのまにか話が重なり合い、しかし“わからないことをなんでもメタって呼ぶのはよくない”と釘を刺される。漢字に関する諸々は特に面白かった。

No.1 7点 小原庄助
(2018/02/25 16:06登録)
「名前はまだない」というどこかで聞いたことのある一文ではじまる。猫の「吾輩」は、名前が無くても猫として存在するが、こちらは何が何だか分からない。
「書かれつつあるもの」は「書かれる」ことによってしか存在しない。「実在的な主張を行う文章」として存在しはじめた「私」は、自分を存在させるパソコンのシステムや日本語の構造などから、次第に書くという行為とその意味を問うていく。
などと書くと批判的で難解な実験小説だと思うかもしれない。確かにそうなのだが、ここにあるのは抱腹絶倒の難解さであり、著者の独自性という本来、他人には分かるはずのないものを「伝わる」ように表現し尽くした誠実さが生んだ逸脱だ。
小説が動き出す前のかくも多くの準備や手続き。その中で、作中人物のすれ違いや、バグによる世界の変容といったドラマが巻き起こり、読者を「思考の遊園地」にいざなう。
伝説的な私小説は、作者の生活と創作の秘密の一端をのぞかせるものだったが、ここにあるのは人がものを考え、表現することの本質に迫るエンターテインメントである。

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