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ミステリの祭典

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過去、現在、そして殺人
広告代理店社主 ジュリアン・クィスト

作家 ヒュー・ペンティコースト
出版日1983年12月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2023/03/14 09:04登録)
(ネタバレなし)
 多くのシリーズキャラクターを輩出している割に、日本の読者にあまり(まったく、ではない)馴染みのない作者ペンティコーストの、シリーズものの一本。

 この作者の長編は一本だけ、中短編はそれなりに読んでいるが、本作の主人公のアマチュア探偵で、中規模の広告代理店ほかエージェント業の代表ジュリアン・クィストとはたぶん、今回、初めて出会った。

 向こうでは相当数のシリーズが出ているレギュラー探偵らしいが、その辺の有難味が正直、よくわからない。
 たぶん日本ミステリに関心のある欧米のマニアに、十津川警部ものの佳作~秀作をいきなり一本だけ英訳して読ませるようなものであろう。
 作品個体の出来不出来とは別のところで、送り手と読者のなじみきったレギュラー探偵の事件簿の一編として味わうのがまず前提という感じの、そんな作風であった。

 謎解き&行動派ミステリとしての長所や短所はすでに大方、nukkamさんが語ってくださった(たしかに犯人は当てやすい)。 
 あえて評者なりに付け加えるなら、事件の根っことなった地方都市ウットフィールドを舞台に、謎の犯罪者を憎んで狩ろうとする地元住民たちの熱気がじわじわと高まっていく断片的な描写は、ちょっとクイーンの『ガラスの村』かアイリッシュの『死刑執行人のセレナーデ』みたいな感じの独特の趣がある。
 
 日本でいうなら、前述の西村京太郎か佐野洋あたりの佳作といった触感。一冊読んでどうのこうのいう作品ではないが、そんなに高い期待値でないのなら、そこそこ楽しめる。
 あと小説的には、6年前に奥さんを殺され、本人も半身不随になった老政治家の、日々の痛ましい描写が胸に応えた。この辺りだけは、軽佻浮薄にエンターテインメントとしてだけ読むわけにはいかなかったというか。

 しかしペンティコーストってのも、長年日本の古参ミステリファン(海外ミステリは原書は読まず翻訳だけ読む評者のようなヒト)に親しまれてる割に、イマイチ作家性の掴みどころのない作家だ。
 読んだ長短編、どれもおおむねそれなり~そこそこは面白い印象があるけれど、これ、という機軸の作風やシリーズが定まらないからだろうね。
(あ、そんな観測をしてるのは、オレだけか?)

No.1 5点 nukkam
(2018/02/12 21:45登録)
(ネタバレなしです) 16の長編が書かれたジュリアン・クィストシリーズの1982年発表の第12作です。夜中にクィストに電話をかけてきたのは友人のダンで、彼の恋人ジェリが殺され、犯人を探して殺してやると告げて電話を切ります。ダンが見当違いの人間を殺しかねないと心配するクィストはダンと犯人探しに乗り出します。生々しい描写はありませんがジェリは殴られ、性的暴行を加えられ、刺され、そして頭部に銃弾を撃ち込まれるという残虐極まりない仕打ちを受けています。事件関係者の1人が同じ拳銃の銃弾で瀕死の重傷を負わされ、さらには6年前にジェリの故郷でジェリの両親も同じ凶器で襲われていたことがわかり(母親は死亡、父親は身体障害者になります)、事件は混迷の度合いが深まります。サスペンス豊かな展開で読ませる作品ですがハヤカワポケットブック版の裏表紙の粗筋紹介で「本格推理」とあるのは首肯できません(ハードボイルドに分類できると思います)。凶悪性がエスカレートする犯行の前にクィストが犯人の心当たりが全くつかないまま終盤を迎えたかと思うとあまりに突然の解決が待っています(読者は当てやすいかも)。そこには推理による謎解き要素はありません。

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