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ミステリの祭典

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罪の女の涙は青

作家 日下圭介
出版日1984年09月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2020/10/17 04:52登録)
(ネタバレなし)
 1977年の夏。奥飛騨の山荘が全焼し、宿泊客の11歳の少女・寺島咲子が焼死。さらに2人の若い娘も、生涯、癒えることのない深手を負った。それから6年後、その山荘のパーセンテージオーナーだった「私」こと50歳の木次喬は、経済評論家かつコーヒー専門店「セフィニ」のオーナーとして活躍していた。だがそんな木次のもとに、彼が自分の実の娘のように後見していた七里姉妹の上の姉で、27歳のOL・梢が自殺したという知らせが届く。梢はセフィニの雇われマスターの青年・北原康雄とも恋人関係にあったが、その北原にしても彼女の死は予期しない衝撃だった。そして梢の死の直後、木次とその妻の律子、北原、そして梢の妹・梓に向けて、<自分は三人の男女を殺した>と被害者の名前を並べて罪を告白する、のべ三通の遺言が届いた……。

 作中の主要人物の大半が何らかの<罪人>であると、作者が当初から公言して語るフーダニット要素の強い、サスペンスミステリ。
 登場人物たちの秘められた部分が次第に露になってくる物語の筆致はかなり陰鬱で重いが、その辺は作者の処女作『蝶たちは今…』以来の変わらない持ち味でもある。ただし本作は、これまで評者が読んできた日下作品のなかでも、その辺の感覚がひときわ腹に応えた。
 
 脇役もふくめて約40人近くの名前を与えられた登場人物が錯綜し、人間関係はかなり複雑。一方で後半、メインヒロイン、準メインヒロインたちのほとんどが雁首揃えて容疑者のリストに並ぶあたりはなかなかダイナミックな趣向だ。終盤は、容疑者のアリバイをひとりずつ検証しながら、真犯人は誰か? のフーダニットに迫っていく。
 なお事件の真相を支える(中略)トリックは思いのほか手堅いが、一方で事件全体の構造は、なんというか……。

 しかし主人公・木次の終盤のある段階での決断は、読んでいて心情的にキビシイなあ…という思いを抱いた(間違っているとは即断できないものの考え方だが、一方でこれで良し、としてしまったら、それはそれで問題あるというか)。

 もっともそれ以上に後半の衝撃を上書きするのは、ラスト直前で波状攻撃風に語られるサプライズのつるべ打ち。これに絶句する。
 その辺りは一部、雑といえば雑な叙述な印象もあるのだが、一方で主要キャラたちの切ない心情や追い込まれた事情を不器用な形ながら、しかし熱量を傾けて綴るところは、いかにも日下作品らしい。

 この作品以前の日下長編に何かしらの接点を感じてきた方なら、これも読んでみていいだろう、とは思う。

No.1 6点 nukkam
(2018/01/20 22:07登録)
(ネタバレなしです) 「奥飛騨山荘の怪火」という副題を持つ1984年発表の本格派推理小説です。恋人からのプロポースを断って自殺した女性は3人もの人間の命を奪ったと遺書に書き残していました。それを信じられない主人公が真偽を確かめるために事件を調べていくプロットです。講談社ノベルス版で作者は「この物語に登場する者達はほとんど全員が罪人である」と紹介していますがどの証言にも嘘や隠し事らしきものが見え隠れして、何を信じればいいのかもどかしい謎解きが続きます。探偵役の主人公が真相の一部を知りながら最終章までずっと隠していたというのは本格派としては読者に対してアンフェアなように感じますが、感情を抑制した描写ながら悲哀感に満ちた人間ドラマとしてなかなかよく出来ていると思います。

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