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ミステリの祭典

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古都の殺人
旧題「死を呼ぶ聖女」

作家 高柳芳夫
出版日1985年11月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2025/03/23 16:41登録)
(ネタバレなし)
 とある人物が入手した、「わたし」こと八王子の小規模な病院院長で40歳の医師・戸川隆也の日記。そこにはその年の3月10日、戸川が彼の友人の大学教授・糺の宮文人と飲んだその夜、怪しい占い師から「あなたには死相が見える」と告げられたことが書かれていた。その災厄を回避するには、本業の医療活動以外で、生命に関わる人助けをしなければならない? やがて戸川は相模湖の周辺で、自殺しかけたらしい絶世の美女を救うが、彼女は記憶を失っていた。その出会いを契機に、やがて戸川の意識はある人物への殺意に向かう。

 祥伝社文庫版『古都の殺人』で読了(元版からは、特記するような改修はないようである)。

 主要人物の日記(当然、一人称視点)の掲示から物語がスタートし、途中で通常の描写に切り替わる。ブレイクの『野獣死すべし』みたい? と思ったら、すでに本サイトでnukkamさんがご指摘であった。さすがである。

 事件が一旦決着しかけるが
①残りページがそれなりにまだある
②登場人物は多め(雑魚キャラまで入れるとネームドキャラのみで50人以上?)だが、本筋にからむメインキャラはぐっと少ない
……なので、あー、こりゃまだ何かあるな、でもって何かあるならこれまでの描写の積み重ねからあのキャラが臭いな、とどうしたって気づかされてしまう。ただし作者もその辺は心得てると見えて、クライマックスは向こうなりにふいをついてきた感じ。もちろんあんまり言えないけど。
 ただし、その最後のサプライズがさほど効果的とも思えず、特に真相の開陳の部分はどうにも言い訳がましいように聞こえるのはどんなもんか。
(最後の真実の開陳が、あーいう形になるのは、いかにも作者が面倒な作劇や手続きを避けた印象だ。)

 とはいえ、小中規模のイベントが間断なく生じ、好テンポで話が転がっていく一方、あちこちに散りばめられてるっぽい伏線を拾っていきたくなる感じはなかなか楽しかった。
 そーゆー意味で、いささか強引な部分は感じたものの、それなりに謎解きミステリを読むゆかしさはあった一冊だった。
 純粋な評価だけだと佳作の下~中くらいなんだけど、評価以上に楽しめた作品ではある。

No.1 5点 nukkam
(2018/01/12 03:55登録)
(ネタバレなしです) 法月綸太郎の本格派推理小説「頼子のために」(1990年)がニコラス・ブレイクの「野獣死すべし」(1938年)の影響のもとに書かれたことは有名ですが、全体の1/5にあたる第1章が殺人を犯そうとする男の日記である1980年発表の本書も「野獣死すべし」を意識して書かれたのではと思います。どんでん返しが連続する謎解きがある本格派推理小説ですが最後の2章を読むと推理が微妙に詰めが甘く、どちらが犯人でもよかったような印象を受けました。もう少し深堀りされた人物描写なら虚しさを残す結末がよりドラマチックになったのではと感じました。

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