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ミステリの祭典

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金髪女は若死にする
ビル・ピーターズ名義

作家 ウィリアム・P・マッギヴァーン
出版日1957年01月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 8点 人並由真
(2022/04/06 22:05登録)
(ネタバレなし)
 その年の4月のシカゴ。「私」ことフィラデルフィア在住の38歳の独身の私立探偵ビル・カナリは、以前に故郷の町で10日ばかり付き合ったブロンドの美女ジェーン(ジェニイ)・ネルスンに会いに、シカゴに来ていた。先方から再会の約束をもらっていたカナリはジェーンのアパートに向かうが彼女は不在で、そこに別の男「フィリー」が現れる。当惑するカナリのもとにジェーン当人から電話があり、仔細はあとで説明するということで場所を指定されたカナリはジェーンのもとに向かうが。
 
 1952年のアメリカ作品。
 ポケミス巻末の都筑解説を読むと当時の出版界全般が「ポスト・スピレーン」の流れを狙う中で企画刊行された一冊とあり、事実その通りなのだと思うが、個人的にはとても手ごたえのあった作品で、あえて通俗ハードボイルドだのどうだののレッテルを貼らなくてもいいような中身だった。
 というか、こういう作品を読むと改めて「ハードボイルド」の定義がわからなくなるし、さらに正統派ハードボイルドと通俗ハードボイルドのカテゴライズ分類ってなんぞや? セックス(お色気)描写があり、アクションに比重を置いていても、一級のハードボイルド私立探偵小説というのが登場したっていいよね、という思いに駆られる。
 本作はまさにそんな内容で、プロット、キャラクター描写、テーマ性、そして主人公の立ち位置とメンタリティの在り方、そのすべてを踏まえた上で、ある意味では個人的にこれまで出逢ってきた1950年代・ハードボイルド私立探偵小説のひとつの理想形。

 思うところあってミステリとしての部分は、ここであまり語りたくないが、十分に楽しめた。そしてその上で、先に並べたような、評者が50年代の私立探偵小説ハードボイルドミステリに求める、あるいはバランスよく取り揃えてほしいと思った多くの賞味要素が、十二分以上に詰め込まれている。
 作者の正体がマッギヴァーンだと知って納得。というか、これってかなり(シャレではない)マッギヴァーンらしい作品だろ。

 最後の一行が胸に染みた。このまとめ方、ああ、間違いなく「ハードボイルドミステリ」で「ハードボイルド私立探偵小説」。こういうのもれっきとした、フィニッシング・ストロークだな。

No.1 5点 クリスティ再読
(2018/01/02 18:17登録)
本作の著者はビル・ピータースの名義なのだが..本作がマッギヴァーンの変名で書かれたことは周知で、これ1冊きりの名義、たとえばカート・キャノンみたいに妙に人気のある作品というわけでもないので、マッギヴァーンの中に入れる。本サイトだと別名義の管理ができないから、その方が合理的だと思う。
まあ本作、タイトルからして下世話である。その通りで、スピレインの二匹目のどじょうを狙った企画で書いたもののようで、「通俗ハードボイルド」としか言いようのない内容で展開である。主人公はフィラデルフィアの私立探偵ビル・カナリ。フィラデルフィアで出会った恋人ジェーンの住居であるシカゴに、カナリが休暇をとって突然訪問すると、ジェーンは不在、しかも何やら怪しげな空気が漂う。電話で連絡があり、ジェーンの居場所に向かうと、そこで出会ったのは、ジェーンの拷問された死体だった...
これだよ。要するにスピレインだと友人を殺害された私的な報復として「裁くのは俺だ」しちゃうわけだが、そういう「私」性を本作は取入れている。でまあ、カナリはよく女性にモて、ジェーン以外にも、協力者の女性新聞記者、ジェーンの同僚でヤク中のディーラーとのエッチなシーンがあって、当然ギャングも登場、ガンアクションも数回。殴られ監禁されるのもあり...とサービス満点。
でしかも、結構大技のひっくりかえしをするのだが、これが細かい伏線を引いてたりするし、最後にギャングをハメるため、大掛かりな監視の下で麻薬取引を追いかけるのだが、「ファイル7」あたりで発揮されるマッギヴァーンの状況俯瞰的な良さが光る..と「通俗ハードボイルドの模範解答」を見せられたような気分である。「通俗ハードボイルドってそんなものか?」という疑問が評者はフツフツと湧いてきてしまう。駄菓子のつもりで食べたら、和三盆だったような気分。

あなたはスマートで心臓が強くてガッチリしているわ。それに反して私は、ヘソ曲りの世間知らずよ。あなたはそのちがいをわざと誇張してよろこんでいるのだわ

なんて書かれるとちょっとイヤ味というものだ。やれやれ。

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