home

ミステリの祭典

login
天地明察

作家 冲方丁
出版日2009年12月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 8点 HORNET
(2020/05/24 16:20登録)
 「12人の…」を書評したら、こちらも作品で上がっていたので書きます。
 読んだのはずいぶん前で、詳細な内容は実はあまり覚えていないが、非常に興味深く楽しく読んだ印象は残っている。
 時代物を読むとき面白いのは、いつの時代であっても卓越した頭脳をもった人間は当然のことながらいたと気づかされることだ。考えてみれば当たり前のことなんだけど、どこかで、時代の文明度をそのまま当時の人たちの知的水準にあてはめて想像してしまっているところがあって、ちょんまげを結って刀を差している時代の人たちが高度な科学的論議をしているところをあまり想像できない。けれども、その時その時に常に「最新」はあって、それをリードしている人たちは当然現代であれば最新科学をリードする人だったのだろうと察せられる。
 時代がかったアナログな手法で、高度な科学議論が交わされている様相が純粋に面白かった(覚えがある)。

No.1 6点 小原庄助
(2017/11/29 10:40登録)
江戸時代に、世事に背を向けて、算術と暦術と囲碁に打ち込んだ渋川春海と彼をめぐる人々の物語である。
主人公の生きた世界には、鬱陶しいものは何もない。描かれるのは、才能あふれた闊達な名家の青年が、権力と見識を併せ持つ立派な年長者たちに見いだされて、その才能をあやまたず評価され、順調に出世し、良きライバルに出会い、清潔な恋をして、ライフワークを成し遂げ、幸福な家庭生活を全うしましたという、たいへん気分のいいお話である。
たぶん、こんな幸福な青年は江戸時代にだって、(どの時代だって)そういたはずはない。けれども、そのような「幸福な青年」を虚構を通じてであれ、一つのロールモデルとして提示することがなければ、当今の若い人たちはそのような「気分のいい生き方」があることを想像することも、願うことさえないかもしれないということは考えてみてもいい。
現在の純文学には「何か」が足りないと思っていたけれど、それは「こういう生き方っていいよね」という素直で朗らかなロールモデルの提示だったということに、この本を読んで気付かされた。
このような作風を「批評性がない」「問題意識が欠けている」と難じる評論家もいるかもしれない。けれども、人間の「暗部」には一切触れまいとする作家の決然たる態度のうちに、強い方法的自覚を感じるのである。

2レコード表示中です 書評