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ミステリの祭典

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神秘の島
グラント船長シリーズ。別題『ミステリアス・アイランド』、『神秘島物語』

作家 ジュール・ヴェルヌ
出版日1978年08月
平均点8.00点
書評数2人

No.2 7点 いいちこ
(2018/02/20 19:12登録)
「海底二万里」以上に、緻密に組み上げられた莫大なガジェットが、本作の魅力の源泉であり、その抜きん出た構築の才は高く評価する。
一方、こども向けの作品であることも影響しているのか、登場人物がことごとく万能であり、ご都合主義的な幸運に再三恵まれるなど、スムーズすぎるプロットがサスペンスを減じているのは事実。
とりわけ、リンカーン島の生活インフラは、あのような少人数がわずか4年間で建設できるかと言えば、大いに疑問が残るところ。
しかし、総合的な評価としては、非常に面白い作品であり、リーダビリティの高さも相まって、高いレベルにあるのは間違いない

No.1 9点 Tetchy
(2017/10/16 23:46登録)
上下巻併せて830ページ弱。これまでのヴェルヌ作品でも長大を誇る作品だが、ヴェルヌの膨大な知識によって次から次に繰り出されるサヴァイバル術や探検行によって全くだれることなく物語が続く。それまでのヴェルヌ作品の全てを注ぎ込んだかのような一大長編だ。
農林畜産、養殖業といった第1次産業から、製鉄、建築、建設、ガラス工業と云った製造業の第2次産業とたった5人と1頭の犬、そして途中で加わるオランウータンによってこれら全てのことが網羅されている。サイラス・スミスと云う、ヴェルヌ自身を投影させたかのような博学の技師の指導の下、有能なメンバーによって彼らの生活は発展を遂げ、一種の町を、いや独立した国家を形成していくかのようだ。

勿論それらは非常に出来過ぎの感はある。何事もスムーズに進み、時折獣たちに彼らの飼育場が荒らされそうになるなどの事件もあるが、それは大したものではない。また長きに亘る共同生活にありがちな住民同士の価値観の違いによる衝突や派閥なども生まれず、実に理想的なコミュニティを形成されているのも人間ドラマ的には起伏がないだろう。そういった部分がもしかしたらヴェルヌ作品が子供の読み物との評判を授かっていたのかもしれないが、こういったごく少数の人間によって運命を切り拓く純粋な楽しさを本書は備えている。

ところで不満を敢えて云うとすればヴェルヌの作品はとことん女気がないことだ。本書で登場するのは全て男どもだ。今まで読んできた作品で女性が物語に絡んできたのは『グラント船長の子供たち』と『八十日間世界一周』ぐらいではないだろうか。ヴェルヌの書く物語は少年たちの冒険心をくすぐるのには非常に優れているが、昨今の小説に必需品とも云えるロマンスが一切ないのである。これが世間をしてヴェルヌ作品を児童文学たらしめている1つの要因であると思える。

しかしそれだけでヴェルヌ作品を敬遠するのは大きな間違いだ。上に書いたように本書は数多の知識と生き抜く知恵が豊富に与えられ、しかも今までの一連のヴェルヌ作品が単発的に書かれたわけではなく、大きな物語世界が広がっていたことをも教えてくれるのだ。確かに現代の小説から見れば男女のロマンスなどの感情の起伏に乏しい面もあるが、今なお読まれるべき作品であるとの思いは強まった。

南北戦争からの決死の脱出、無人島に辿り着いた男たちのサヴァイバル生活、海賊たちとの戦い、そして彼らを見守る謎の存在、最後は生きるか死ぬかのタイムリミットサスペンス。
よくよく考えると現代の冒険小説に必要な要素がほとんど全て備わっている。ないのは上述した男と女のロマンスぐらいだ。19世紀の遺物と思わず、手に取ってみてはいかがだろうか。少年少女の頃に胸躍らせた冒険の愉しさが、4年間を諦めずに生き抜いた男たちの生活と共に必ず蘇ってくることだろう。

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