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ミステリの祭典

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浜中刑事の迷走と幸運
浜中康平シリーズ

作家 小島正樹
出版日2017年02月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 HORNET
(2017/10/29 16:08登録)
 鄙びた片田舎での駐在所勤務を切望しながらも、意に反して次々と手柄を立ててしまい、「ミスター刑事」とまで呼ばれ困惑しながら捜査一課の刑事を務める浜中刑事シリーズの長編。
 今回は、私利私欲に凝り固まり、しかも虐待趣味のある悪徳フリースクールが舞台。物語は犯罪現場の描写からの倒叙形式で始まるのだが、凶器移動のハウダニット、動機の真相は何なのか、のホワイダニット、さらに本当に起きたことは何なのかのホワットダニット(なんて言葉はないか(笑))など、複数の謎が次々に生まれる複合的なストーリーになっている。
 凶器の謎はある意味小島氏らしいバカミス風で、もっとも浜中刑事らしいマンガ的な解明だったが、それ以外は自己犠牲の友情、生徒の切実な家庭環境、刑事たちの熱い正義感と矜持など、かなりシリアスに描かれており、またなかなか引き込まれる物語になっている。
 最後にすべての真相が将棋倒し的に解明されていくのだが、そこで前半の伏線がきれいに回収されていて、見事さを感じた。リーダビリティも高いし、本格&警察小説ファンには好まれる作品ではないかなぁ。

No.1 6点 人並由真
(2017/10/17 15:10登録)
(ネタバレなし)
 昭和43年夏の群馬県。苦学生の少年・池澤俊太郎は、陰湿な恐喝者をはずみから傷付けてしまう。池澤の随一の親友である高校生・里遊馬は、母子家庭の家族を養わねばならぬ池澤を庇って身代わりの罪をかぶり、保護観察処分となった。高校を中退した遊馬は、同じ県内にある全寮制のフリー・スクール(卒業しても高校卒業の公認は得られない私塾)の与古谷学園に入園するが、そこは生徒を暴力と虐待で縛る拝金主義の魔窟だった。だがそこで暴力教師・関村広茂が変死。凶器と思われた苅込鋏ははるか遠方の意外な場所で見つかった。

 田舎でのんびり駐在生活を送りたい本人の意図とは別にラッキーかアンラッキーか功績をあげてしまう「ミスター刑事」こと浜中康平ものの第二弾(ただし今回の実質的な名探偵役は、浜中の相棒の夏木大介刑事~前回もそうだったかな? 忘れてしまった)。

 物語は数十年前の<戸塚ヨットスクール事件>を思わせる題材だが、内容はおそらく現実の事件以上にカリカチュアライズされている。
 トリック派の作者としては今回は消えた被害者(の死体)の行方の謎、学園内で起きたなんらかの事件のホワットダニット、さらには周囲に建造物やその時間に飛んだ飛行機やヘリなどなにもない場所で「高空から落下」した凶器の謎などが創意となっている。
 学園内の苛烈な虐待の描写は、今年、すでに古野まほろのあの長編を読んでいたものの、それとは違うベクトルでじわじわ来る。今回はメッセージ的な意味で作者はこっちに重点を置きたかったのかな、と思っていると、終盤でこの描写がある部分のホワイダニットに応えた形になるのはうまい。佳作~秀作。 

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