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ミステリの祭典

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囁く死体

作家 ウィリアム・P・マッギヴァーン
出版日1957年01月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点 クリスティ再読
(2018/04/29 23:32登録)
マッギヴァーンって何故か同じネタで2作書く傾向があるみたいだ。本作と「ゆがんだ罠」がペアになるし、元刑事復讐譚だったら「ビッグヒート」と「最悪のとき」、悪徳警官なら「悪徳警官」と「殺人のためのバッジ」、閉鎖空間でのパワーゲームなら「ファイル7」と「明日に賭ける」..でどうしても比較になるのだが、本作は「ゆがんだ罠」とだと歩が悪い。雑誌編集部内の人間模様の描きっぷりも、パズラーとしてのフェアさも、もう一つ。あ、本作は「ゆがんだ罠」同様に「巻き込まれ型パズラー」といった体裁のもので、ハードボイルドでも警察小説でもなくって、サスペンスと言うほどでもないからきわめて消極的に「本格」枠が適切。
どうみても「ゆがんだ罠」が本作の上位互換なので、そっちを読むことを薦めるが、被害者がイヤなヤツでも、イヤなヤツなりの屈折が描けているあたり、完全な悪人も完全な善人もいないマッギヴァーンらしい世界ではある。
さて残りは本はキープ済の「虚栄の女」になった。さすがに「1944年の戦士」は戦記物だしなあ....いいだろ。

No.1 6点 人並由真
(2017/10/06 16:42登録)
(ネタバレなし)
 「私」こと28歳の若手ミステリ作家スティーヴ・ブレイクは、中堅出版社トーン・ベイリーの社長トーンに声をかけられ、今度創刊する新ミステリ誌の編集長に就任した。彼は迫る発刊の日に備えて、トーンが紹介した副編集長格の四十男、バイロン・クロフォードとともに掲載候補の原稿を精読したり、誌面の方向性を研鑽する。そんなスティーヴはある雨の夜、自宅に殺人課のマーチン警部の訪問を受けた…。
 
 私的に久々のマッギヴァーン。本作は彼の処女長編で、後年のような悪徳警官ものやノワール感はほとんどない。ただし主要人物にして、他者との軋轢や女癖の悪さなど種々の問題を起こすクロフォードに対して、単なる愚物とも嫌な奴ともキャラクターを単純化せず、主人公スティーヴの視点で<100%悪い人間やイヤミなヤツではなく、クロフォード自身が自分の弱さを知っているからこそ、つい軽挙をとってしまう>とそういう人間らしさを語るあたりなど、のちのちのマッギヴァーン風の文芸味が窺える。

 作品の中身としては、先述のようにノワールともハードボイルドまたは社会派ともいえない、巻き込まれ型サスペンス風の導入部で開幕する都会派パズラー。
 物語の構成は時系列を素直に並べないちょっとひねった作りだが、最後までフーダニットの要素は押さえられており、主人公スティーヴも素人探偵役として、クライマックスに関係者一同を集めて推理を披露する。
 ただし大きな手掛かりが解決寸前になって読者の前に用意され、しかもすぐにそこから真犯人の察しがつくので、純粋な推理~謎解きミステリとしてはちょっと弱い。

 とまれ既存のミステリ作家がミステリ誌の編集長業を請け負い、その業務を苦労しながらも楽しんでいくという本作の大設定はとても興味深く、現実世界のクイーンもチャータリスもハリディもマクベインも(一部名義貸しはあったり、編集の実働を別の者に任せたりはしてるのだろうが)こういう風にそれぞれの任に当たったのだろうかと想像を巡らすとなかなか楽しい。サブキャラとして登場する、原稿を売り込みに来る作家連中の叙述も味わい深く、そっちの興味でもたっぷり楽しめた一冊。

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