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ミステリの祭典

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見たのは誰だ

作家 大下宇陀児
出版日1955年01月
平均点4.50点
書評数2人

No.2 5点 人並由真
(2020/12/14 01:36登録)
(ネタバレなし)
 終戦からしばらく経ったその年の2月上旬。T大学の法学部に在籍する桐原進は、彼を「兄キ」と呼ぶ学友の古原昌人とともに、昌人の叔父で元外交官の古川敏行の屋敷に物取りに忍び込む。進は秀才の苦学生だったが、恋人でK大学の学生、木田紀美(きみ)を妊娠させてしまい、彼女と所帯を持つためにまとまった金が必要だった。当初、進は、敏行が戦時中から自宅に秘匿している金塊を穏便に盗み出すつもりだったが、計画の歯車は狂い、犯行現場は惨状となった。「任侠弁護士」俵岩男は、この事件の弁護を引き受ける が。

 昭和30年11月に刊行の元版で読了。
 主人公の進を主軸とした窃盗計画とその顛末をストレートに(?)綴って、物語の紙幅の5分の2くらいを消化。金が欲しくて犯罪を行い、それがうまくいかなかっただけ。裏も表もないお話が語られ、残りの内容をミステリとしてどう読ませるつもりなんだ、コレ、と思っていたら、妙な方にストーリーが膨らんでいく。

 でもって読了後、数年前に復刊された文庫の感想をAmazonやTwitterで探ると、結構、みんなの評判はいいみたいね。
 まあ作者が用意した後半の展開のぶっとび具合がさらに一回りして、意外に時代を感じさせないものになってしまった、という印象もある。

 ちなみに小説の細部では、当時の若者気風の批判なども横溢。しかしその辺も21世紀の現代に通じる部分もないではないから、面白いといえば面白い。

 全体的に小説としては意外に読ませるというか『石の下の記録』レベルには面白かった。前半の犯行に至るくだりの軽い緊張感に加えて、後半のメインキャラとなる俵弁護士の描写もなかなか独特の雰囲気がある。
 自分が人情家であることを客観視した俵がなるべく冷静になるように務め、不当に被疑者に肩入れせずに事件に向かいあおうとする。そんな心構えの描写も(それは法に携わる者としては当たり前の態度ながら)ちょっといい。

 ミステリとしては、先述の<話が膨らんでいく後半の部分>をどう取るか、だな。これで作品の独自性が出たと評価するか、とにもかくにも後半の物語を盛り上げて最後にまとめるため、強引な趣向を動員したと見るか。……うーん、個人的には、双方の思いが相半ば、かな(笑)。

 罪もない家畜が冷酷に殺され、その実行者がくだんの件で反省もしない、明確なお咎めもなし、という点では、悪い意味で昭和作品。
 もろもろの感慨をまとめて、評点はこのくらいで。

No.1 4点 虫暮部
(2017/09/05 09:00登録)
 第一部の強盗のくだりはそれなりに面白く読めたが、そのあとは場当たり的に展開して無理にまとめたような感じで苦笑することしきり。これが発表時点で探偵作家としてキャリア30年の作者によるものだから困っちゃうなぁ。
 この時代は“恋人”のニュアンスで“愛人”と言ってたんですね。

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