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ミステリの祭典

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さよならの値打ちもない

作家 笹沢左保
出版日1968年01月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点
(2021/01/12 08:21登録)
 中堅繊維会社・丸甲毛織取引先招待旅行の代役ホストとして、はるばるヨーロッパ旅行に赴いた妻・澄江が、スペインのマドリードで服毒死をとげた。後日、病床に臥すその夫・営業部長五味川大作の許に、妻が死の前日に書いた絵葉書が届く。その葉書に偶然旧友と再会したと記されていた事を手掛りに、五味川は真相を探り始めるが、やっと捜しあてた女性・野添美沙子は既に二年前、嫁入り先の造り酒屋で縊死していた。では、妻が出会った人物はいったい誰なのか? 手掛りのないまま次々と殺されてゆく関係者たち。旅情豊かに描く長篇ラブ・サスペンス。
 雑誌「推理界」1967年7月号~1968年4月号にかけて連載された、『明日に別れの接吻を』に続く著者の第39長篇。同年発表の長篇には次作『猛烈に不幸な朝』や『魔男』があります。
 〈新本格派〉〈プロット本格の名手〉と謳われた人だけあってストーリーには工夫が見られ、亡妻から送られた二枚の絵葉書を巧みに用いることにより、ミステリアスな掴みと不可能興味の醸成、加えて本筋からの誤誘導に成功しています。
 職人風に手堅く纏められた○○もので、達者な筆致で描かれたロマンス中心の作品。全五章のうち第四章で犯人トリックその他は明らかになりますが、この段階でもいくつかの謎は残されており、トータルでは最終章で深情けに絆され、運命の地マドリードで苦悩する主人公・大作をどう見るかが最終判断の鍵になるでしょう。梶龍雄と並んで評価の高まってきているヒトなので、これが最高傑作という訳ではないでしょうが。女性読者の感想なども、できれば知りたいところ。
 恋愛ハウツー本なども含め380冊近くもの著作を物したのが災いし、週間文春のマニア企画『東西ミステリーベスト100』では、1985年版国内第60位に処女作の『招かれざる客』がランクインしたのみ。同2012年版での選出は無く、近年はやや忘れられた感もありますが、元はと言えば泣く子も黙る昭和の実力作家。掘り返せばまだまだ未知の佳作が埋もれている気がします。

No.1 6点 人並由真
(2017/08/06 17:39登録)
(ネタバレなし)
丸甲毛織の営業部長で社長令嬢・澄江の夫・ 五味川大作。体調不良の彼は欧州への営業周りの役職をその澄江に任せたが、彼女はスペインで毒による変死を遂げた。死の直前、妻から送られてきた絵葉書には、旧友・ 野添美沙子にスペインで会った旨の記述があり、五味川は情報を求めて福島の美沙子をたずねる。だが彼がそこで認めたのは、美沙子がすでに2年前 に死んでいるという驚愕の事実だった。そんな彼は、自分の運命を変える美貌の人妻・井石麻衣子と出会い……。

死んでるはずの人間の目撃、という佐野洋の「砂の階段」を思わせる導入部で始まり 、大小のトリックを組み合わせて、物語はかなり思わぬ方に流れていく。作者のファンには本書を最高傑作とするものもいるらしく、確かに密度感は相応のもの。一読後には、ひとつひとつのパーツはシンプルながら、それらを自在縦横に組み上げた作者の手際に唸らされた。
一方で中盤からサブヒロインの一人となる会社OLの描写など、ああ、兎にも角にもいつもの笹沢節だな、という独特の味付けを感じさせて。

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