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ミステリの祭典

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女王陛下の騎士ー007を創造した男
ジョン・ピアーソン

作家 伝記・評伝
出版日1969年01月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2025/01/18 16:40登録)
「007の謎」というものは、究極のところイァン・フレミングという男の謎、ということにもなるのだ。もっともらしいことを言おうとすれば、何でも言える。大戦中に英国秘密情報部で活躍した男、ハイクラスの贅沢を知り尽くした男、ギャンブラーであり、ゴルフの名人、そしてダンディに「列を乱す」男。007は作者フレミングの隠れた自伝であることをこの評伝は明らかにするのではあるけども、しかし、フレミングの実像との乖離もまた大変興味深いものがある。

金融界の大物の子弟として生まれ、出来の良い兄に比較されて腐っていた弟。奇妙な反抗心をコアに抱え込み、容易に本音を外には漏らさない。一見活動的ではあるのだが、真に活動的であるとは言えない、奇妙に矛盾した性格をこの評伝では明らかにする。

まずいことには、イァンは訓練生としては優れていたが、秘密工作員や真の行動の人間としての気質はもっていなかったというだけのことだ

海軍情報部でのフレミングの活躍は、これは確かな事実である。その活躍は海軍情報部長の私設副官としての「微妙な」立場にあるものである。目標を定めて綿密なプランを立てて、適切な人員を配置し...といったマネジメントに辣腕を振るったのだが、現場に詳しいわけではない。何でも「できる」のだが、何もできない男。自分では何もできないが、「誰にできるか」については完璧な人物・能力の鑑別ができ、それについての人脈を備えている男。永遠のアマチュアであり、ディレッタントであることを宿命づけられた万能人。
....そしてそのことに、強いコンプレックスを抱いてもいる。

こんな肖像を本書は描いてみせる。だからこそ、007はフレミングの「夢の自伝」としての性格を帯びていることになるわけだ。

何者でもないが、何でもできる。そういう不思議な人間が作り出した「夢」として、007がインテリから大衆に至るまで、さらには60年以上の時代を越えて愛されるのは、大変不思議なことでもある。
007が「唯一無二」なのは、やはりフレミングが「唯一無二」だったことの反映なのだろう。
(評者は憧れるね...先日バーでヴェスパーを飲んだ。すっきりしていて軽口なおいしさ。マティーニより好き)

No.1 7点 人並由真
(2017/08/06 19:49登録)
ドキュメント風フィクション『ジェイムズ・ ボンド(ジェイムズ・ボンド伝)』でも知られる作者ジョン・ピアーソン(ピアースン)が、同作に先駆けて厖大な取材を積み重ねて綴った、イアン・フレミングの伝記。
本書が刊行されたのが1965年で半世紀以上前。21世紀の現在ではすでに別の資料やwebで参照できる情報も少なくないとはおもうが、007神話の黎明期を語り綴ったまとまった評伝としてやはり面白い。
たとえば第二次大戦中 、ナチスのルドルフ・ヘスのオカルト衒学趣味に着目したフレミングが、かのアレイスター・クロウリーのカリスマを利用して懐柔を考えたという逸話など、実に興味深い(ル・シッフルのモデルの一人がそのクロウリーだということも本書を読んで初めて知った)。
フレミングの若すぎる晩年、007神話の立役者がすでに創造者からショーン・コネリー に完全に切り替わっていた事実も、ある種のドライな趣を込めて綴られ、その辺も感慨深い。
惜しむらくは007の原作小説シリーズ後半についてフレミングがどのような意識で取り組んだかの記述が、シリーズ前半に比して駆け足すぎること。
特にあの『わたしを愛したスパイ 』 のような異色編をフレミングがどういう心境のなかで著したかの観測は、ぜひとも読みたかった。
無い物ねだりは山ほどあるが、007ファン、フレミング小説世界に魅せられた者なら一度は目を通しておくべき一冊。

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