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ミステリの祭典

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火星に住むつもりかい?

作家 伊坂幸太郎
出版日2015年02月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 E-BANKER
(2022/07/11 13:10登録)
またもや作者の独特の世界観が披露されることとなる作品。
次から次へとよくもまぁ、こんなこと考えられるよなぁーって素直に思います。
2015年の発表。

~「安全地区」に指定された仙台を取り締まる「平和警察」。その管理下、住人の監視と密告によって「危険人物」と認められた者は衆人環視の中で処刑されてしまう。不条理渦巻く世界で窮地に陥った人々を救うのは、全身黒ずくめの「正義の味方」。ただひとりディストピアに迸るユーモアとアイロニー。伊坂ワールドの醍醐味が余すところなく詰め込まれたジャンルの枠を超越する傑作~

これまでも他の誰もが真似できないような、様々な世界観を創造してきた作者。人はそれを「伊坂ワールド」と呼ぶ(↑紹介文でも書いてるしね)
ここまでくると、何だか、「伊坂ワールド」っていうテーマパークができてもおかしくない気がする。「オーデュポンの祈り」ワールドや「陽気なギャング」ワールド、「殺し屋シリーズ」ワールド・・・etc
きっと楽しいアトラクションなんかができそうだ。「ゴールデンスランバー」ばりに逃げ回るアトラクションとか、「死神」とシンクロしながら館内を回っていくアトラクションとか・・・
でも、そんな非現実的な世界観のはずなのに、今回も場所は「仙台」という作者のホームタウンに設定されている。しかも、話の中心となるのは「ある床屋」っていう実に庶民的な場所。
このリアルと非リアルがいい塩梅に混ぜ合わさったとき、傑作が生まれるんだろうなと感じる。

そこで本筋に入るわけだが、今作で登場する世界。「平和警察」に監視され、国家に都合の悪い人々は公開処刑されいくという世界。
読む人は当然、昨今の強権国家、中国、北朝鮮、ロシア・・・を思い浮かべることになる。本作の発表は7,8年前だから、今のロシア情勢なんて想像つかなかったはずで、作者の慧眼には頭が下がるけど、かの国々はこんな状況で日々暮らしているのだろうか?
本作で作者は「偽善者」という単語を登場人物を通じて何度も語らせている。「ロシアは酷い」「プーチンは狂っている」などと繰り返すマスコミや評論家を見ていると、どうしてもそういう言葉を出したくなる・・・
いやいやあまり政治的な話はよそう。そういうわけで本作のエンタメ的な要素は他作品に比べると薄い。タイトルは多分に逆説的で、こんな(監視下の)地球でも住みたいでしょ、そうじゃなかったら「火星にでも住むかい?」っていうことかな? それでも地球に住むしかない人類。「国」規模で考えるんじゃなくて、「地球」規模で考える人間でありたい。なんてことを考えたんだけど。毎日しようもないことで悩んでいる一庶民です。それもやむなし(かな?)。

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