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ミステリの祭典

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バン、バン!はい死んだ

作家 ミュリエル・スパーク
出版日2013年11月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点
(2020/01/22 10:11登録)
 The Complets Short Stories by Muriel Spark(Penguin,2002)を底本とした、英国ブラックユーモアの女王、ミュリエル・スパーク(1918~2006)の日本オリジナル短篇集。1954年発表の「双子」から、2000年発表の「人生の秘密を知った青年」「クリスマス遁走曲」まで、全15篇収録。
 発表年を見ても分かるように非常に息の長い作家でスコットランド生まれ。南ローデシア(現ジンバブエ)で結婚した後まもなく離婚。第二次世界大戦のさなかUボートの襲撃に脅えながら軍用輸送船でイギリスに帰還したのち、MI6(英国外務省秘密情報部)政治情報局にて対ドイツ情報操作を担当。その後『オブザーヴァー』誌の懸賞に募集し、短篇「熾天使とザンベジ河」が一等入選。グレアム・グリーンの支援を受けて作家活動に邁進します。出世作は故郷エディンバラを舞台にファシズムに傾倒するある女学校教師の行動と、彼女の教え子たちを描いた「ミス・ブロウディの青春」。
 英国文学賞その他輝かしい受賞歴を持つ著名作家ですが、代表作を見ても意地悪ばあさんの一言。淡々とした筆致やスーパーナチュラルなモチーフ、そして殺人を平然と持ち出す作風は、どことなくサキ風味。あそこまで登場人物を突き放してはいませんが、底意地の悪さはその分マシマシ。ピーター・ディキンスンやジェイムズ・ティプトリー・ジュニア同様、アフリカ在住経験からくる西洋社会観察の視野がまた冷ややかさに拍車を掛けています。
 〈世渡り上手と世渡り下手〉〈自信家たち〉〈頭の中をのぞいてみれば・・・・・・〉の各カテゴリーに短篇2本と、ショートショート13篇をそれぞれ割り振る構成。纏わりつくような部分が出てるのは「双子」それに次いで表題作ですが、同系統なら「黒い眼鏡」の方が好みかな。独身女性をダシに関係の強化を図る夫婦とか、陰から他人の転落を願ったりとか、全体にそういった嫌らしさが炸裂しています。カラッとしているのであまり後へは引きませんが。
 個人的ベスト3はその「黒い眼鏡」に、突然家に飛び込んできた小人の円盤を巡る夫婦コメディ「ミス・ピンカートンの啓示」、占うつもりが逆に相手に利用されてしまう「占い師」。次点は「双子」。イーヴリン・ウォー「ラヴデイ氏の短い休暇」を思わせる「首吊り判事」も捨て難い。触れ込み通りかなりブラックな作品集です。

No.1 7点 小原庄助
(2017/07/07 09:10登録)
異彩を放つ粒よりの短編集。
「双子」では美しい双子を持つ夫婦と独身女性の交流がつづられ、人間の負の側面がじっくり味わえる。
どのエピソードも日常にありそうなことなのでいっそう怖い。
乾いた語り口が滴るような悪意を際立たせている。
「ポートベロー・ロード」「遺言執行者」はユーモアを漂わせながらも、あざけるような筆致に毒がたっぷり。
どの作品も後味は悪いが、妙に心に食い込んでくる。
そこが作者の魅力と言える。

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