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ミステリの祭典

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セイレーンの懺悔

作家 中山七里
出版日2016年11月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点 蟷螂の斧
(2017/07/19 18:38登録)
入社2年目の女性TVレポーターの成長物語でもあり、TV報道の在り方について批判的立場での物語でもありました。全体的にもっと毒々しさがあっても良かったのかなとの印象です。ラストの宮藤刑事の一言に変な感動をしてしまいました(苦笑)。

No.1 6点 HORNET
(2017/06/11 20:22登録)
 今回の題材は、「マスコミの矜持」といったところか。
 主人公の朝倉多香美は、帝都テレビの看板番組「アフタヌーンJAPAN」の制作に携わるジャーナリスト。朝倉には、実の妹が学校でのイジメを苦に自殺したという過去があり、世の真実を暴きたいという使命感をもってジャーナリストになった。
 ある日葛飾区で発生した女子高生誘拐事件。被害者・東良綾香は、暴行を受けたうえで顔を焼かれるといいう、無残な状態で死体となって発見された。義憤に駆られ、鼻息荒く取材に向かう朝倉の前に立ちはだかったのは、警察の宮藤刑事だった。「不幸を娯楽にし、拡大再生産するのがマスコミ」とマスコミを侮蔑する宮藤刑事。強い反発を感じながらも、思い当たる節がある朝倉は何も言い返すことができず、自身の仕事の意味、存在意義を自問自答し煩悶する。
 迷いや悩みを抱えながらも、先輩ジャーナリスト・里谷の教えを頼りに取材に邁進する朝倉。そんな中で、他社が嗅ぎつけていない人物たちにたどり着き、その密会の場をとらえることに成功する。特大スクープに小躍りし、事件の真相に迫ったという満足感に浸る朝倉だったが―

 多くの読者が同じ感想を持つかもしれないが、青臭い主人公以上に、清濁併せ飲みながら、それでも揺るがない信念をもって職をまっとうする先輩、里谷に一番惹かれる。「スクープをものにしたい」という、ある意味下世話ともいえるジャーナリストの本能を認め、とはいえそれが世間にどう映るのか、被害者たちにはどう思われるのか、開き直りではなく真摯に受け止め、そのうえで前を向いて邁進する姿にカッコよさを感じる。
 特ダネの誤報という形で真相が二転三転し、ミステリとしてもきちんと仕掛けが施されているが、それ以上にここまで述べたような社会的問題提起のほうに興味が惹かれるのは、評価の分かれるところかもしれない。 

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