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ミステリの祭典

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猫たちの聖夜
猫の名探偵フランシス

作家 アキフ・ピリンチ
出版日1994年06月
平均点8.00点
書評数3人

No.3 8点 八二一
(2022/07/22 20:07登録)
語り口が純文学っぽいというか、いかにもドイツ的。登場人物は一人マッド・サイエンティストが出てくるだけで、あとは全部猫という猫の世界のミステリ。
事件の解決方法に猫でしか使えないロジックが絡んでいて、そのへんの持っていき方がユニーク。

No.2 8点 ROM大臣
(2021/12/06 14:53登録)
頼りにならない飼い主グスタフとともに古いアパートに引っ越してきた雄猫のぼく(フランシス)は、無残な猫の死体を発見する。どうやら猫殺しはこれで四件目らしい。コンピューターを自在に操れる長老猫パスカルら、近所の猫たちの手助けを借りて真犯人を突き止めようとしたぼくは、やがてひとりのマッド・サイエンティストの手記を発見する。
この物語は猫の世界で展開され、直接姿を見せる人間はグスタフただひとりである。しかし、ここで描かれる猫の世界は、そのまま人間の縮図でもある。エゴイズム、生命の尊厳への冒涜、狂言、不条理な運命に翻弄されるなど。
そんな暗澹たる世界観で覆われつつ、物語がユーモアを漂わせているのは、利口で生意気、かつ哲学的思索癖を持つ主人公フランシスのキャラクター造形の故である。また、猫の世界だからこそ成立する動機の設定も秀逸で、異世界パズラーとして極めて高度な達成を示した作品といえる。

No.1 8点 tider-tiger
(2017/05/21 12:22登録)
雄猫のフランシスは飼い主とともにこの街に引っ越して来た。飼い主はボロ屋の改装に躍起になっている。そして、フランシスは連続殺猫事件に遭遇する。

1989年度のドイツミステリ大賞受賞作。作者はトルコ人でドイツ在住とのこと。
これを読んだところでドイツミステリへの理解が深まるとは思えず、また、邦題と表紙絵がここまで内容と解離した作品も珍しい。猫が好きな人にお薦めしたいが、猫が好きな人にはお薦めしづらい部分がかなりある。少なくともほのぼのとした猫のお話などではない。非常に重たく哀しい物語。
猫の世界で起きた事件を猫が解決するミステリだが、他にも寓話、SF、ホラーなどの要素が同居する。事件の背景に人間は介在するも、事件の解決に人間はほとんど介在しない。
とてもユニークな作品。語り口がいい。キャラもなかなかいい。事件の背景が読ませる。ハウダニットに関しては捨てている(猫がアリバイだとかのトリックを駆使するのはちょっと馴染まないですしね)。フーダニットはもう少し容疑猫がいないとなあ。で、本作の肝はホワイ。なんというか、とんでもない話であります。伏線はあちこちに張られているが、誰しもちょっとポカーンとしてしまうような動機。しかし、私は納得できた。犯猫の心情も理解はできる。凄い。
人によって評価が大きく分かれそうな作品だし、説教臭いのが少々鼻につく、強引などなど欠点もあるが、美点と衝撃がそれに優る傑作ではないかと、そんな風に思う。

猫たちの聖夜 原題はFelidae ネコ科 という意味のドイツ語らしい。
もう、圧倒的に原題の方がいいんですよ。内容とばっちり合っているうえになんとカッコいいんだろう。でも直訳すると『ネコ科』これは確かにまずいなあ。

動物一人称小説は視点動物に知性と言葉を与えつつ、知識を欠落させておくのがよく使われる手だが、本作は猫にコンピューターを使わせるなど人間並の知性、知識を与えて思考させつつ、猫の世界や行動をきちんと描いている。
以下本文より 主人公が他の猫と遭遇し、話しかけようとしている場面
~ぼくは窓敷居からバルコニーに降り、さらにたたきに降りた。そしてゆっくりと、ことさらさりげなさを装って、ぶらぶらと歩いていった。以前、オシッコ場で目と目を見交わした仲だよな、といったふうに。とっくに気づいているくせに、やつはみごとなほどに平然としていた。~
猫の性質、行動を作者はきちんと理解したうえで描いていることがこの文章を読めばわかる。読者に猫の世界を覗いているかのように錯覚させる力がある。猫→人間と読み替えることを妨げる。

2017/06/09 追記
※ネコ科を意味するFelidaeという単語はドイツ語ではなくラテン語だそうです。訂正しておきます。
また、ドイツミステリ大賞受賞作だと書きましたが(本の帯にもそう書いてあるのですが)、受賞していないという説もあるようです。 

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