墜ちる人形 私立探偵マーク・イースト |
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作家 | ヒルダ・ローレンス |
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出版日 | 1999年12月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 5点 | nukkam | |
(2019/04/26 22:47登録) (ネタバレなしです) 1947年発表のマーク・イーストシリーズ第3作の本格派推理小説で、ハワード・ヘイクラフトやアントニー・バウチャーが絶賛したそうですが本書がヒルダ・ローレンス(1906-1976)の最後の長編作品で、この後は中短編をいくつか発表したのみです。小学館文庫版の裏表紙で「彼女は何者かに殴打され、庭で死体となって発見される。自殺か他殺か?」と粗筋紹介されているのには困惑です。殴打されて自殺かよって突っ込みたくなりました(笑)。表現描写はかなり抑制されていて、せっかくの仮装パーティー場面は盛り上がらないし人物も誰が誰だかわかりにくかったです(しかも登場人物リストに載ってないのに結構登場場面の多い人物が何人もいます)。人並由真実さんのご講評で本書の重厚さをP・D・ジェイムズの先駆的に位置づけているのはなるほどと共感しました。前半はぐだぐだ感が強くて読みにくかったですが、マークの捜査が軌道に乗ってくる9章あたりからミステリーらしくなってサスペンスもじわじわと効いてきます。 |
No.1 | 5点 | 人並由真 | |
(2017/04/08 12:13登録) (ネタバレなし) NYにある煉瓦作りの8階建ての「希望館」は、裕福な篤志家の後援で運営される独身女性専用の集合住宅。環境や設備は良好で部屋代も格安ながら、その分、約70人におよぶ住人への日々の規律は厳格という気風の寄宿寮だった。この「希望館」に近隣のブラックマン・デパートのやり手の店員ルース・ミラー(29歳)が入居するが、それから数日後の仮装パーティの夜、彼女は7階から墜落して変死を遂げる。ミラーをひいきにしていた実業家の若妻ロバータ・サットン(20歳)は、夫ニックの友人である私立探偵マーク・イーストに調査を依頼。同時にロバータの年長の友人コンビ、ベシー・ペティとピューラ・ポンドもアマチュア探偵として独自の行動を始める。 ヘイクラフトやバウチャーにも称賛されたという1947年の新古典作品で、日本では20世紀の最後に発掘紹介された一冊。この作者のシリーズ探偵であるマーク・イーストものは、すでに1950年代の創元・世界探偵小説全集に『雪の上の血』が翻訳されており、本邦にはほぼ半世紀ぶりの再登場だった。 ちなみに90年代~2000年前後の小学館はこの手の未訳の海外ミステリ古典発掘企画にも積極的で、以前に筆者は当時の担当編集者さん(今は別の出版社に移籍)にお話を伺う機会があったが、ご当人のあとは担当する後継者が小学館社内に育たなくてこの路線は途絶えたとのこと。返す返すも残念である。 それで作品の中身は、アメリカの女流作家ながら、のちのレンデルやP・D・ジェイムズの重めの作品系列を思わせるみっしりした文体で綴られ、正直決して読み易い作品ではない。各章もそれぞれ中身の割に長すぎて息継ぎしにくいし、翻訳もところどころ気に障る。 それでも多数の登場人物を一カ所の主要舞台に押し込めた設定に独特の緊張感と魅力があり、なかなか本が手放せない。ベシーとピューラの有閑おばさん素人探偵コンビも、読んでいるうちにその自在闊達な言動がじわじわ楽しくなってくる。個人的に、最近は長編作品はベッドではあまり読まないのだが、これは続きが気になって本を寝床まで持ち込んでしまった。フーダニットとサスペンスが融合した方向性でいえば、マーガレット・ミラーの諸作に通じるところもある。 はたして最後に明かされる犯人の正体と動機に関しては面白い線を狙い、それをギリギリまで引っ張る演出も好感が持てるが、その分、解決のくだりなど少し舌ったらずな印象になった気もする。 全体的には、一回くらいは読んでおきたい佳作。 |