死のロングウォーク バックマン・ブックス |
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作家 | スティーヴン・キング |
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出版日 | 1989年07月 |
平均点 | 6.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 5点 | 蟷螂の斧 | |
(2017/10/23 11:46登録) ロングウォークという競技。ゴールはない。歩行速度が落ち、3回警告を受けると射殺されるというもの。そこには「死」だけがある。近未来のSFに近い設定です。ミステリーを読む立場からすると、少年たちは何故このようなゲームに参加するのか?、主宰者の大佐とはいったい何者か?といった謎に興味を持つはず。しかし、本書の解答は?・・・・・。死ぬことがわかっていて参加するのでクローン人間かな?と思いましたが違っていました(苦笑)。解説によると登場人物の心理描写やキャラクターの魅力がメインとのこと。なお、米澤穂信氏の「インシテミル」は本書を意識して書かれたとのコメントがあり、本書を手に取ってみました。 |
No.1 | 8点 | Tetchy | |
(2017/03/26 23:11登録) ロングウォーク。それは全米から選抜された14~16歳の少年100人が参加する競技。ひたすら南へ歩き続ける実にシンプルなこの競技はしかし、競技者がたった1人になるまで続けられる。歩行速度が時速4マイルを下回ると警告が発せられ、それが1時間に4回まで達すると並走する兵士たちに銃殺される。 最後の1人となった少年は賞賛され、何でも望むものが得られる。 この何ともシンプルかつ戦慄を覚えるワンアイデア物を実に400ページ弱に亘って物語として展開するキングの筆力にただただ圧倒される。 また印象的なのはこの生死を賭けたレースを通り沿いにギャラリーがいることだ。時に彼らは参加者を応援し、思春期の少年たちの有り余る性欲を挑発するかのようにセクシーなポーズを取る女性もいれば、違反行為と知りながら食べ物を振る舞おうとする者、家族で朝食を食べながら参加者に手を振る者もいる。さらに彼らが口にした携帯食の入れ物をホームランボールであるかのように記念品として奪い合う者、参加者が排便するところをわざわざ凝視して写真を撮る者もいる。死に直面した若い少年たちを前に実に牧歌的で自分本位に振る舞う人々とのこのギャップが実は現代社会の問題を皮肉に表しているかのようだ。 今目の前に死に行く人がいるのにもかかわらず、それを傍観し、または見世物として楽しむ人々こそが今の群衆だ。テレビを通して観る戦争、その現実味の無さにテレビゲームを観ているような離隔感、リアルをリアルと感じない無神経さの怖さがここに現れている。彼らはこの残酷なレースを行う政府を批判せずに年一度のイベントとみなしている時点でもはや人の生き死にに無関心であるのだ。 シンプルゆえに考えさせられる作品。解説によればこれを学生時代にキングは書いた実質的な処女作であるとのこと。だからこそ少年たちの心情や描写が実に瑞々しいのか。この作品が現在絶版状態であるのが非常に惜しい。復刊を強く求めたい。 |