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ミステリの祭典

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生か、死か

作家 マイケル・ロボサム
出版日2016年09月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 びーじぇー
(2020/03/21 13:44登録)
物語の中心はオーディ、モス、デジレーの三人。主にこの三者の視点から語られる。特にオーディのパートは味わい深い。追跡から逃れながらも、ある目的のために静かに突き進んでいく姿を描く現在。そして、家族との、恋人との思い出が語られる回想シーン。現在は冷徹に、過去は温かく、両者の対比が印象に残る。
彼の目的がどこにあるのかは、物語の結末近くまで明かされることはない。だが、その行動と回想から、茫洋としていた人物像がやがてはっきりと見えてくる。十年の歳月にも、獄中の苦境に屈することなく、自らの信念を貫く人物として。過去のさまざまな出会いと別れから、多くを学んだ人物として。
モスとデジレーの二人がそれぞれにオーディを追う過程で、意外な真相が徐々に浮上する。ストーリーの根幹にあるのは、あくまでも脱獄したオーディの行動と回想だ。しかし、脇を固める二人の追跡と真相解明もまた、物語に厚みをもたらしている。二人以外の脇役もまた、それぞれに印象深い。
巧みな視点の切り替えで、精緻なストーリーをスピーディに読ませる。土台を支えるのは確かな人物描写。重厚な物語で読者を打ちのめし、そして緩やかに結末へと着地する。手堅く組み立てられた、骨太の小説だ。

No.1 7点 人並由真
(2017/03/03 13:30登録)
(ネタバレなし)
 現金輸送車襲撃事件のただ一人生き残った容疑者として、十年の懲役を受けた青年オーディ・スペンサー・パーマー。同事件では奪われた700万ドルの古紙幣が未回収だったが、オーディは服役中、その金の在処について何度も生命の危機に遭いながらも、沈黙を守り続けた。そして現在、明日は釈放というその日、33歳のオーディは脱獄する。なぜ彼はそんな不可解な行動に出たのか? 謎の人物によってオーディの追跡を命じられた囚人仲間の黒人中年モス・ジェレマイア・ウェブスター、そして中学生のごとく低い身長ながら凄腕のFBI女性捜査官デジレー・ファーネスは、脱獄囚の行方を追うが…。

 CWAゴールデンダガー賞受賞、MWA最優秀長編賞ノミネート、さらにスティーヴン・キング絶賛ときて、これだけ箔がつけばさすがに気にならない訳はない。
 結果、二段組みのポケミス450ページ以上をほぼ一気に読ませる面白さで、骨太ながら敷居の低いエンターテインメントとして確かによくできている。
 とまれ肝心の一種のホワイダニット「なぜ一日待てなかったのか」の部分は、過去から現在の事件の真相の発覚後、あまりポイントにはなっていない(一応の状況の理解はできるが)。
 主人公オーディの過去の回想と十年前の事件、さらに現在が結びつく面白さの方で読ませる作品。副主人公といえるモスとデジレーの、応援したくなるようなキャラクターもいい。
 評点はちょっとだけおまけして7点。悪役連中の類型的な感じは少し気になるが、全体的にはグイグイ読ませる秀作だろう。

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