反乱 世界ミステリ全集7巻所収/『叛乱』の旧訳あり |
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作家 | エリオット・リード |
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出版日 | 1960年01月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 6点 | 人並由真 | |
(2020/08/24 03:43登録) (ネタバレなし) 1950年代初頭。オーストリアの東方にある某小国。アメリカの新聞社「スター・ディスパッチ」紙の駐在員チャールズ・バートンは、強権体制の政府とそれに対抗する革命派、それぞれの動向を気にするが、普段は穏健策を採っていた。だが前任の駐在員ドン・グローバーが懇意にしていた現地のライター、ベロ・トロビクが不審な行動をとり、警察庁長官パウル・セスニクがバートンのもとにも接触してくる。バートンは現地で雇用した美しい女性秘書アンナ・マラスにひそかな思慕を抱いていたが、その彼女の父であるアントン元大学教授は、現大統領リーケの旧友であった。さらにアンナ本人もリーケともセスニクとも旧交があり、迫る流血革命の気配は、マラス父娘にも及んでいく。バートンはアンナを連れての国外への亡命を図るが。 1952年の英国作品。ポケミス版(『叛乱』)で読了。 舞台となる小国の政局や国内の争議の実情が物語の背景くらいにしか語られない。それゆえ、なんだ、この作品でアンブラー(と相棒作家のチャールズ・ロッダ)が書きたいのはあくまでアンブラー版『鎧なき騎士』(J・ヒルトン)であり、革命劇に至る設定はあくまで一種の舞台装置かとも思わされた。 最後まで読んでもそんな当初の印象は、当たらずとも遠からずといったところだが、中盤であるイベントが起きて後半の展開に至るなか、政局の変遷はクライマックスの流れにもちょっと関わってくる。だから大設定が途中でまったく忘れ去られた訳でも、100%ムダになった訳でもない。その程度には、手堅い? 作り。 ただまあ、良くも悪くもメロドラマ要素の強い冒険スリラーなんだから、もうちょっと肝心のメインヒロインのアンナを魅力的に描いてほしいきらいはある。いやレジスタンスだった兄をナチスに殺されて気丈になった知的な美女で、老いた父親を残して自分だけ主人公と逃げることに二の足を踏むとかのキャラ設定にはとりあえずスキはないんだけれど、読者目線でもうひとつ、惚れ込める部分がないのだな。そこはちょっと残念。 最後の山場の脱出劇のテンションと、ちょっと人を食ったオチはそれなりに評価。 評点は0.5点ほどオマケして、この点数。 |
No.1 | 6点 | クリスティ再読 | |
(2017/02/27 23:42登録) エリオット・リードという名前は、スパイ小説の巨匠、エリック・アンブラーがチャールズ・ロッダという大衆作家と組んで書いているスパイ小説の名義(書かれたのは1950年~1957年の計5作)である。アンブラー本人名義のものって渋苦いアイロニーが味の決め手だけど、リード名義はエンタメ寄り。難解さはなくて読みやすい。まあその分薄味だけど、それでも本作あたり、アンブラーの得意な東欧の社会主義圏の小国のお国柄みたいなテイストはよく出る。 本作はリード名義の4作目。東欧の小国の支局に赴任したアメリカ人の新聞記者バートンは、秘書となったヒロイン・アンナに魅かれるが、アンナとその父マラス教授と、それをとりまくレジスタンス人脈が、現在の大統領をはじめとする政府側と、反政府勢力に分解して不穏な雰囲気が流れていた...バートンはアンナの亡命計画を練るが、亡命したと見せかけて国内に潜伏していた元支局の寄稿記者が、オペラハウスで大統領を暗殺しクーデターが始まる。しかしクーデターは失敗に終わり、警察の追及をかいぐぐり、アンナの亡命計画は実行できるのか? といった派手な話である。 冷戦まっただなかに書かれた作品だが、アンブラーはイデオロギー的にまったく中立に書いている。特にリベラルな反政府側に肩入れするところもなく、クーデターも計画が粗雑で失敗が目に見えるようなものでしかない。主人公たちを監視する警察の長官のセスニクが、コミカルだが食えないキャラ。こういうキャラがアンブラーらしい。 アンブラー本筋のアイロニーはないけども、ウェルメイドなエンタメである。悪くない。 |