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ミステリの祭典

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盗まれた指
マレイズ警部シリーズ

作家 S=A・ステーマン
出版日2016年12月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 5点 人並由真
(2017/01/29 13:59登録)
(ネタバレなし)
 勤務先の社長の息子を袖にして馘首された23歳の娘クレールは、ブリュッセルの古城トランブル城に引っ越してきた。両親と死別したクレールを迎え入れた城主は、彼女の伯父で寡夫のアンリ・ド・シャンクレイ。14世紀以前からの歴史を刻む城には再婚した城主が不幸に見舞われる伝説があるらしく、アンリはそれを気にしていた。クレールは有能な美貌の家政婦ガブリエル・レイモンと親しくなるが、そんなガブリエルの周囲で怪しい人物がうろつき、やがてガブリエルはクレールに、アンリについて意外な事実を語る。そんななか、クレールはドラマチックな出会いをした青年ジャン・アルマンタンと恋に落ちるが、その彼女が眼にしたのは、城の中の死体! しかも殺人事件が確定した被害者の左手からは小指が切断されていた!

 あー…パズラーとしても小説としても二流。カーの中期作を思わせる昭和の少女漫画風のロマンスや、随所のいかにも思わせぶりなミステリ的なフックはケレン味に富んでいるものの、最後まで読むと後者の興味なんかは『マネキン人形殺害事件』同様の、ポカーンとした印象に転じていく。せめてヴィクトリア・ホルト並みの筆力があってもう2~3割ほど紙幅を増やせたなら、少なくともゴシックロマン的なワクワク感はもっと醸し出せたんじゃないかしら。
 ああそうですか、で終わる指切断の謎解きや、冒頭からの思わせぶりな駅長の伏線のくだりなんか、別の意味ですごいね。殺人事件の<意外な真相>も察しがつく。

 とはいえステーマンというのはこういう作家だというのも、すでにある程度分かっているから、そんなに怒る気にもならない。探偵役のマレイズ(他の訳書ではマレーズ表記もあり)警部は、クロフツのフレンチ警部をさらにカリカチュアした感じの善良な人だしね。まあ数年に一冊くらいずつはこれからも未訳作を発掘してほしい作家であります。

No.1 5点 nukkam
(2016/12/28 10:38登録)
(ネタバレなしです) ベルギーの本格派推理小説作家S・A・ステーマン(1908-1970)は新聞記者時代から同僚と合作でミステリーを書いたりしていましたが後に新聞社を退社して単独作家として成功しています。大胆なアイデアが光る作品をいくつも書いていますが一方で仕上げが雑に感じられることも少なくないのが欠点でしょう。初期作品である1930年発表のマレイズ警部シリーズ第1作の本書でもその特徴が顕著で、論創社版の充実した巻末解説(ネタバレになってますので事前には読まないように注意下さい)でも紹介されていますがジョン・ディクスン・カーの某作品を先取りしたような真相に驚く一方で十分な謎解き伏線があるとは感じにくいのが惜しまれます。死体の指を切り落とした理由が他愛もなかったりマレイズ警部がヒロイン風の容疑者を無実と判断する根拠がはっきりしないなど、緻密な謎解きを期待して読むとがっかりするでしょう。

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