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ミステリの祭典

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カムパネルラ

作家 山田正紀
出版日2016年10月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 小原庄助
(2018/02/09 10:08登録)
戦前の価値観がずっと続いていたら・・・。そんな設定を、現代の閉塞感に直結させた作品。
ある青年が駅に向かう場面から始まる。宮沢賢治研究家だった母が亡くなり、遺書に従って、賢治の故郷である岩手・花巻の川に遺骨を撒きに行くのだ。駅に貼られた「美しい日本」を宣伝する「メディア管理庁」のポスターが登場する辺りから、かすかな違和感を覚えていく。ここは公共への奉仕が強調されるパラレルワールドなのだ。
賢治は生前「銀河鉄道の夜」を何度か改稿したが、この「銀河鉄道ワールド」は第3稿と第4稿の間で揺らいでいる。両者の最大の違いは、生命もささげる滅私奉公型の公共精神を重んずるか、私的な自由を大切にするかにある。さらに「風野又三郎」が探偵役で登場し、「雨ニモマケズ」の真意も「この世界」に影響を与えている。
物語は、幻想小説からミステリやホラー、さらには革命思想にまで向かう。思えば賢治が執筆した1920年~30年代は、未来派や新感覚派が注目され、プロレタリア文学や探偵小説が勃興した時代だった。本書は、戦前日本にも似た閉塞感に包まれた世界に、「あの時」切断されてしまった可能性のすべてを再導入するかのようだ。

No.1 6点 虫暮部
(2016/11/28 10:57登録)
 呪師霊太郎シリーズでも題材とした宮沢賢治にSF側からアプローチした作品。SF設定の中で殺人が発生、中盤までその謎解きで進むものの、ミステリ的決着が中途半端なままSF的カタストロフで押し流してしまった。こういう結末なら全体のSF度がもっと高くて良いと思う。

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