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ミステリの祭典

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君よ憤怒の河を渉れ

作家 西村寿行
出版日1979年04月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 6点 E-BANKER
(2020/03/08 21:08登録)
作者の最高傑作(?)との呼び声も高い本作。
なぜか最近になって福山雅治主演で映画化というオマケ付き。とにかく読んでみるか・・・
1980年の発表。

~東京地検のエリート検事・杜丘冬人は、新宿の雑踏で突然女性から強盗強姦犯人だと指弾される。濡れ衣を着せられたその日から、地獄の逃亡生活が始まった。警視庁捜査一課・矢村警部の追跡は執拗だった。無実を明らかにするため杜丘は真相を求めて能登から北海道へ。自分を罠に陥れたものは誰なのか。怒りだけが彼の心の支えだった。長編ハードバイオレンスロマンの最高傑作~

いやいや、スゲエ奴! 主人公の杜丘検事。とにかく不死身なのだ。
北海道では人食い(!)羆と決闘し、経験もないのに北海道から東京までセスナで夜間飛行、一旦入ったが最後誰も出ることができない精神病院から脱出、最後はタイガーシャーク=人食い(!)鮫がうようよ泳ぐ海からの生還!!
普通の人間ですよ! 検事ですから!
とにかくもう不屈の精神であらゆる困難、苦難を乗り越えた末にたどり着いた真相。
それは・・・うーん。よくある政財界の癒着という奴だった。

作者あとがきによると、本作は作者が生島治郎氏に「冒険小説を書いたらどうか」という提案を受けて世に出されたというエピソードが披露されている。
確かにこれは「冒険」だ。いや、冒険以外の何ものでもない。
謎解き要素もあるにはあるけど、読んでるうちにそんなことはどうでもよくなった。
いくら罠に陥ったといってもねぇー もっとやりようはあるでしょと突っ込まずにはおれなかった。
まぁでもこれこそが寿行イズム。決して折れない男のロマンなのだ。
杜丘検事とライバル関係にある矢村警部の存在、これまた男のロマン。当初は完全に敵味方に分かれていた両者が運命のいたずらのように邂逅する終盤。なかなか読ませるシーンだろう。

寿行ファンなら決して落とせない作品なのは確か。
行間から溢れ出る熱量は作者ならでは。
それで、もうひとつの大事な要素ですが・・・ほぼノンエロスです。ひたすら汗臭い(たまに糞尿臭い)男たちの物語。残念無念! 

No.1 8点 斎藤警部
(2016/08/16 14:42登録)
「実際に人を殺す味もおぼえておくといい。」

薬事絡みの謀殺疑惑(不可能殺人!)を追う若手検事、杜丘(もりおか)がハメられた。強姦強盗容疑を着せられた彼は、年上のライヴァルである警視庁の矢村警部、そして味方の筈の伊藤検事正、何より全国指名手配で市民一般から追われ、彼等から逃亡しながら同時に自らの無実証明を追跡し続ける身となる。追われる者/追う者の間に微妙な齟齬や底の見えない展開、そして、謎の共鳴。。 ミステリアスな隠喩の静かな反射。。 “酒の肴にバッヂを磨く”

強姦強盗を虚偽申告した女を追う杜丘。ところが追跡先の民家で女は殺され、杜丘に容疑が掛かる。もう一人の虚偽証言者である男を追って北海道へ渡る杜丘。苦心惨憺の末に彼は一人の魅力的な娘、その父の有力牧場主、彼等の尊敬を受けるアイヌの老人、老人の不倶戴天の敵である一匹の羆(ヒグマ)と出逢い、自分を追って来た矢村警部と遭遇し共に羆と闘い。。 気付くと何気に本格推理領域のシビレさせがゾワリと纏わり付いているのがニクい。「勘違いするなよ、俺は just a 推理小説だぜ?」 と、このハードロマン(素敵な死語!)著名作は鼻息で念を押しているようだ。奇妙な形の蜘蛛の巣。。。。

月があるーーー   娘に惚れられ、牧場主の信を得た杜丘は無謀にも。。。。

動と静の差し合いが最高のバランス。 詩情があるとか無いとか。。
ストーリーの展開ポイントが場面を換えてから明かされる趣向も素敵だ。 薬を吐き出させるトリック(!?)の凄まじさ。。 なかなかの奴に見え出してから矢村の台詞はいちいちイイな。彼の話す言葉は清張の地の文に似ているよ。 悪い男に優しい女、脇役陣は充実。 京子さん、平尾君、忘れ得ぬチョイ役たち。。
そして忘れ得ぬ 「死んだ」。

さて、悪党共は何処に潜む。。。。 その場面で苦笑が出来る余裕。そりゃモテもしよう、杜丘。  おい水葬と鮫葬は違うのか?  標的(ザ・ターゲット)は事務室。。。! 最後の最後までビーーッッチリ詰まったスリルとサスペンスとエロス(冗談)とミステリ興味よ! ところでその「なるほど」はどう英訳しようか。

さて本作は清張ファンなら必読、間違い無い。 文章力の臨界瞬殺現場を見せつけられる。 長い文章が、それを実際に脳が読むより遥か短い時間の凝縮を体現し得ることは重々承知だが、こりゃ限界超え過ぎだよ先生、あなた何喰って生きてきたんですかってべィビィ土下座しちゃうでしょうが。 珠玉の言葉選びがいちいちズシンと来るこんな最高の社会派冒険推理(ハードボイルド味も本格趣向も深い)読まずに死ねるか、って問うてみるしかないでしょう、エヴリバディに。

ラストシーンだけはね、主人公の、ではなく物語の未来が遮断されちまったみたいでちょっと索漠たる想いで、残念だった(それまで最高テンションの文章で絵空事臭さを際どくシャットアウトしていたのが、最後の最後で崩れたような)。それで8点(8.48!)に下げた。 

だけどね、勿体無いですよ、ミステリ好きがこれ読まないなんて。

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