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ミステリの祭典

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301号室の聖者
木村&高塚弁護士シリーズ

作家 織守きょうや
出版日2016年03月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 5点 まさむね
(2018/01/08 23:30登録)
 良くも悪くも、現役弁護士が書いた作品だよなぁ…というのが率直な印象。
 良い意味で述べれば、法律的な知識、それを複数活かした構成は流石であります。訴訟上の和解に至るまでの過程も、実務を踏まえていて興味深い。時に見かける、脇の甘いリーガルミステリもどきに比べれば誠実です。
 一方で、若手の木村弁護士の心情の描き方は、その内容が青臭い点は措いておくとしても、あまりに直接的過ぎるのでは。同じネタでもっと達者な作者さんが書いたとすれば、厚みと余韻の点で、ぜーんぜん違う作品になるような気もします。だって、これは準備書面じゃなくて小説なのだから。裁判官の心証を得ることが目的ではないのだから。
 とは言え、やはり興味深い分野を主戦場にできる作家さんだと思いますので、今後も期待したいですね。

No.1 5点 人並由真
(2016/06/25 04:58登録)
(ネタバレなし)
 新進弁護士の木村は、医療過誤にからむ案件で依頼主の笹川病院を訪ねる。同病院で木村は、東棟301号室の病室で数ヶ月に及ぶ闘病生活を送る中学生の少女・早川由紀乃と知り合った。由紀乃の独特の雰囲気に心を動かされていく木村だが、彼は笹川病院でさらに多様な入院患者や見舞客に出会う。やがて木村は、西棟の方の病室301号室で、不審な死亡が相次いでいることを意識する…。

 昨年の新刊で作者の初の著書『黒野葉月は鳥籠で眠らない』に続く、木村弁護士と彼の先輩である高塚弁護士が主役の新作。シリーズ2冊目は初の長編となった。ただし活字は大きくページは少ない(220ページ強)のでそれほど時間はかからずに読めてしまう。
 それで前作『黒野葉月』の時も思ったことだが、現役の弁護士でもある作者はさすがに興味深い法律関係のネタは用意してある。今回もその手の趣向は複数にわたって盛り込まれ、へぇそういうもんですか、面白い(あるいは悲しい、切ない、または恐ろしい)と、シロートのこちらは感嘆することしきり。
 ただまぁそれがいまひとつ<ミステリとしての妙味・鮮やかさ>につながらないのは、持ち出してきた法律ネタをそのまま原液の形で出し過ぎてる印象があるからで。悪く言えばこの人の作品は、読んでもミステリらしいトキメキは希薄で、法律面のトリヴィアが増えていくだけじゃないかと。
 これは、最後の真相を見極めた際の木村のリアクションが総じてフツーなのも影響してるような。実質的な探偵役は兄貴分の高塚であるにしても、木村が読者の目線そのままに驚くだけの役回りっていうのもなんだかなぁ、である。一部のミステリファンには前作『黒野葉月』の評価は高いようだったが、自分の採点がやや低めだったのは同じ理由だ。
 繰り返すけどネタそのものはさすがプロ弁護士の先生らしくそそられるものもあるので、仕上がりの演出がもっと上手くなればさらに面白くなっていくんじゃないかな、とも実感。

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