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ミステリの祭典

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詐欺師の饗宴
詐欺師シリーズ/旧題『闇からの遺産』

作家 笠原卓
出版日1977年08月
平均点8.00点
書評数2人

No.2 7点 人並由真
(2020/04/18 21:22登録)
(ネタバレなし)
 その年の12月。横浜市内の新興企業「上州機工」の経営陣が突如、行方をくらます。その直後に判明したのは取引先の企業64社を欺き、上州機工の一般社員たちを踏みつけにした大規模な計画詐欺で、被害総額は8億7千万円にも及んだ。やがて18年の歳月が経過。渋谷の小さな事務所「江守経済研究所」の所長・江守欽司は、さる事情から今も上州機工の関係者を探し続けていた。だがある日、若いストリッパーの星川ユミが上州機工に関する情報を携えて接触をはかってくるが。

 改題された創元文庫版で読了。元版は1977年の『闇からの遺産』。

 18年前の上州機工の事件を前章に、物語の前半ではさらにまた新たな詐欺犯罪が、犯行に関わる側からの視点を主体にコン・ゲーム風に語られる。え? これがパズラー? と軽く違和感。

 とはいえ(この時期の創元文庫らしく)背表紙にはミスタークェスチョンマークがあるし、目次にもそれっぽいワードがあるしな……と思って読んでいると、中盤で不可解な(広義の)密室殺人が発生。その状況も丁寧に説明されて、いっきにパズラーに転調する(詐欺犯罪の要素も引き続き語られるが)。本サイトのnukkamさんがよくおっしゃる「ジャンルミックス型」のパズラーですな。

 それでストーリーの後半で繰り出される持ち技の豊富さは、まあ想定内だったけれど、フーダニットの真相についてはなかなか小気味よいものを感じた。まあ分かってしまう人は分かってしまうかもしれないが。
 しかし密室トリックはなかなか楽しかった一方、偽装工作に手間暇かけるコストパフォーマンス的にこの行為、作中の犯人の立場からして引き合うの? という感じ。だっていきなり警察の鑑識で(中略)ってバレてるよね? 
 この辺のすわりの悪さとその反面の妙な愛嬌は、いかにもこの時代(70年代)の一部の謎解き作品っぽい。

 なお某メインキャラの、混迷していく事態からつねに一歩引いたようなポジションには結構ムカムカしたけれど、最後の最後で(中略)。これって<あの英国作品>だったのだな。あそこまでのサプライズとカタルシスまでには及ばないものの、けっこう近いものを感じた。
 文章が全体的にサバサバしすぎているのはちょっと好みじゃないけれど、力作なのは間違いないね。

No.1 9点 Tetchy
(2007/11/20 18:06登録)
渋い!
内容はハードボイルドだが、しっかり本格しちゃってるし。
絶版なのがもったいない!
続編『詐欺師の紋章』は文庫化されないのか?

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