日曜日ラビは家にいた ラビ・スモールシリーズ |
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作家 | ハリイ・ケメルマン |
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出版日 | 1975年09月 |
平均点 | 6.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | 人並由真 | |
(2020/09/01 13:05登録) (ネタバレなし) マサチューセッツ州の一角、バーナード・クロシングの町。そこに駐在するユダヤ教の青年ラビ(律法学士で地域の教徒の指導者)、デビッド・スモールは、アマチュア名探偵としてこれまでにもいくつかの事件を解決してきた。この地での任期も6年に及び、土地の若者たちからも敬愛されるラビだが、最近になって地元のユダヤ教徒の集団「信徒会」のなかに、主流派と反主流派の抗争が勃発。信徒会の会長で電子工学会社の部長ベン・ゴーフィンクルは、自分たち主流派に与しなければ今後のこの地でのラビ任命を打ち切ると「ラビ」スモールに威嚇してきたが、ラビにはそれは了解しがたい意向だった。そんな中、信徒会の面々の息子や娘たちが容疑者になる殺人事件が発生して。 1969年のアメリカ作品。 「ラビ」シリーズの3作目で、評者は久々に本シリーズを読んだ。 それで先にnukkamさんもおっしゃっているが、ポケミス本文230ページのうち、マトモにミステリになるのは全体の5分の3くらいになったところで、それまでは信徒会周辺の軋轢模様、そしてその騒ぎに巻き込まれたラビの苦境が延々と語られる(のちのちのミステリとしての展開のための伏線なども、それなりに忍ばされているが)。 ただこれがユダヤ教門外漢のこちらにはツマラナイかと言えばそんなことなく、ローカルタウンの群像ドラマとして非常に面白い。 反主流派の狙いはユダヤ教教会のまっとうな運営とかではなく、伝統のある地域集団としての同教会内で役職を得て社会的な権威・肩書を得ること。一方で主流派の方も、反主流派が実際にとにもかくにも教会のために行ってきた寄付などの貢献を適切に評価せず、相手の言い分をほぼ全面的に否定にかかる。ラビはこの双方の身勝手な陣営にはさまれて苦労するわけだが、ここにさらに中立派やラビの愛妻ミリアムの物言いなんかがからんできて、小説として実によくできている。 実際、なんかね、ユダヤ教うんぬんを抜きにしても、現実の近所の町内会での人事争いみたいな敷居の低いミニタウンドラマなのよ。 そんなわけで、後半になってのミステリへの転調がやや唐突に思えるくらいだが、もともとこちらはミステリを読もうと待ち構えていたわけだし、それに前述のようにかねてから先に前ふりを設けてある面もあるので、ちょっと読み進むうちに前半からのローカルドラマと本願のミステリ部分も融和してくる。 最後の方になると双方の興味の相乗でもうページをめくる手がとまらない。 実のところミステリとしての興趣というか趣向は短編ネタクラスなんだけれど、伏線・手がかり・ロジックを書き連ねることで結構な読み応えは感じさせている。ギリギリまで明かされない真犯人も、かなり意外な方であろう。 最後の古き良き時代のアメリカ、的な、さらに……のクロージングまで心地よく、久々に手にした「ラビ」シリーズ。十分に楽しめました。 まだ何作か未読の翻訳分が残っているけれど、さらに今からでも未訳のシリーズ4冊が出ないだろうか。まあムリっぽいけれど(涙)。 |
No.1 | 6点 | nukkam | |
(2016/02/19 12:24登録) (ネタバレなしです) 森英俊編著の「世界ミステリ作家辞典[本格派編]」(1998年)ではラビ・スモールシリーズのことを「初期の長編ではユダヤ社会をめぐる風俗的な興味と謎解きとがほどよくブレンドされているが、後の作品になるほど前者の比重が大きくなる」といった紹介をしていますが、1969年発表のシリーズ第3作の本書では早くもその傾向が見られます。殺人は中盤近くまで起こらず、そこに至るまでの前半部は平穏な物語ではないとはいえ教会内の派閥対立や若者たちの夜遊び(過激な描写はない)が中心のプロットなので本格派を期待する読者には少々物足りない展開ではないでしょうか。ただ後半は頑張って謎解きしていますし、収束のつけ方がきれいにまとまっているところは評価できます。 |